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第29話
音稀から聞かされた偏愛経緯は壮絶で、俺の過去なんて可愛いものじゃねえか。
いつものように飯食って仲良くマンションに帰宅、ふたりしてベッドに凭れまったりと語らい中。そろそろ同棲でもすっかと告白態勢に入り、ポッケに手をつっ込み唾を呑み込む。
元嫁にしたプロポーズんときより、よっぽど勇気が要るってどうよ俺。ちなみにポッケのなかは音稀にと用意した合鍵、受け取ってもらえっかな。
どきどきと胸がスパークし破裂しそうだ。断わられたら俺ぜってえ復活できねえ。一生かかっても復活の呪文の一文字が思いだせず、あぼーんして涙ぐむガキに成り下がること請け合いだ。
ふうふうと二度ほど深呼吸をして根性を決めた。よし、言うぞ。
「あの、さ……」
「うん?」
やべえ、マジ怖ええ。
「その、さ……これ──受け取ってくんねえかな」
「鍵?」
「おう。俺ん家の鍵。でさ、よかったら……一緒に住まねえ? いや、ほら、ここってひとりで住むには広いじゃん。男ひとりだし、部屋は一個しかねえけど十二畳あるし。それに──」
「ふふ」
テンパって告白中、音稀が笑った。音稀が笑った。音稀が───
「って、笑ってんじゃねえよっ。ンだよ、広いだろ十二畳ったら。そりゃ一個しか部屋はねえけど、俺そんな荷物もねえし家具とか置くスペースだって余ってんだろ」
「ここが嫌なら部屋数の多いところに引っ越してもいいし」とまくし立てるつもりだったが、それより先に音稀が笑った意味を教えてくれた。
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