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第51話

 ● ● 「一将さん。ほら、そこ」 「──は、あ?……おあっ!!?」  驚愕した。マジかよ、信じらんねえ。  音稀が指さす先に転がるのは、紛れもなくあいつ──いやいや、でもどうして……。音稀が殺ったのか。つか何であいつがキャンプ場(ここ)に。  これは現実か。今すぐ逃げ出してえ。けど音稀を残してはいけねえし。ああもう、俺はいったいどうすりゃいいんだ。パニクるな俺、しっかりしろ男だろっ。  打ちつける水音と月明かりに照らされた(たぶん)死体。それを見下ろす俺の恋人は──満面の笑みで死体の脇腹や顔を靴先で小突く。  音稀おまえ……狂ってやがる───  しゃりしゃりと砂地の道を俺の足音のみ響く。前方を歩く音稀はしっかりとした足取りだが足音すら立てず、さながらその様子は神出鬼没な殺人鬼。ホラー映画の再現かよ。  クソ女との誤解を解くため音稀を追いかけたまではよかったが、まさかホラーな展開になるとは思ってもみなかったぜ。とりあえず身の潔白は主張したし、分かってはくれたと思うのだが……。  これまで浮気バレで修羅場ったのは一度や二度じゃねえが、けど音稀だけは過去の女たちみてえな思いだけはさせたくなかったのに。結局は俺の日頃のおこないが招いた結果か。  ごめんよ音稀、傷つけちまったな──なんて殊勝な気持ちに陥ってる場合じゃねえ、音稀いったいおまえ何をやらかしたんだ。そのシャツについた血はなんだ、よっぽど俺のほうが修羅場じゃねえか。  ばくばくと今にも破裂しそうな心臓を手で押えながら、無言で歩く音稀の後をビクビクしながらつづく俺。つか何か喋ってくれよ、声かけてんのに無視するな。怖いじゃねえか。 「一将さん」 「ひっ!」

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