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第53話

「なあ。もしかして滝に向かってるのか」 「うん」  やっぱり。けど滝にどんな用があるっつんだ。いや、これがホラー展開ならばいくらでも用はあるだろうが……それ系の()だけは考えたくもねえ。  嫌な予感しかしねえが思い切って訊いてみる。 「滝行ってどうすんだ。もしかして俺にお仕置きするとか?」  できるだけ冗談めかしてチャラく訊いてみたが、それに対して音稀の返答「ふふ」。ふふってなんだ、ふふって。意味あり気に笑ってんじゃねえぞ、泣くぞ俺は泣きわめくぞ。  マジでお仕置きされんのか俺。つかもうすでにひとり、お仕置きされたやつがいるみてえだしよ。しかも血ぃ噴くほどの折檻かよ、堪んねえ。生死は問わずってか。  軽く逃げだしたい衝動を残りわずかな男の矜持で留まる俺、けどもうそれも消えてなくなりそうだ。胸にランプはないが、あれば赤黄青に変わり即座にUターンするね。  頭ンなかがごった返した想像で膨らみ破裂しそうだ。俺これから何されんだろうとガチでビビりながら、どうせなら青姦ふたたびで嬉しいお仕置きだったらいいなと淡い期待を抱く。  そんな涙ぐましい俺の想像を音稀が打ち消すようにして声をかけてきた。 「一将さんて、ハプニングバーの常連なんですってね」 「へっ、なんだよ急に──って、なんで知ってんだ。誰から聞いた」 「いいじゃないですか、そんなことは。そういう店があるって知識としてだけは僕も知っていましたが、詳しく把握してるわけじゃなかったので内容を知ってびっくりです」  いやいやおまえ、さっきからなに言ってんの。今この場でする会話じゃねえだろ。つか藪から棒にハプニングバーってさ、いったい誰から仕入れてきた情報だよ。  あれ、ひょっとして俺ピンチじゃね。つか崖っぷちじゃん。誰に吹き込まれた情報かは知らねえが、ともあれ俺がハプニングバーにハマってたことまで知られちゃ幻滅されても仕方がねえ。

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