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第60話

「もしかして、そいつを殺ったのっておまえじゃねえのか。犯人は別にいるってことか」  目のまえがパッと開かれたような気がした。殺人を犯した鬼畜が別にいるってことは、じゃあ音稀は加害者じゃねえってこった。なら罪にはなんねーんじゃねえの。  返り血がシャツの裾だけに付着してたとすれば、ストーカー野郎は殺されるとき座っていたか寝かされた状態だったことになる。ンで後ろに血を浴びたってことは、犯行の直前に音稀は後ろを向いていたってこった。  それって殺人を直視できなかったってことだろ。ふつうそんなエグいシーン誰も見たくねえ。音稀もまたそんな場面は見られないノーマルな神経してたわけだ。  ならまだ更生する余地はある。今からでも遅くはねえ、直接こいつが手を下した訳じゃねえんだ、警察に出頭して事実を話せば罪は重くねえはず。  だったら俺が警察まで一緒に行ってやるから自首しろと言いかけたところで、それよりも先に音稀は「ふふ」とこれ以上ねえほどの冷笑を浮かべ話しだす。 「半分は正解です。僕もね、彼がキャンプ場まで追いかけてきたことには驚きました。一将さんが泥酔している間に彼が訊ねてきたんです、僕らの部屋に。 そして彼の背後には姉さんが立っていた。もう察したかと思いますが、姉さんと彼はまだ切れてなかったようです。あれだけすったもんだして別れたってのに、こいつら陰ではつながってたんですよ。関係も下半身もね。 それなのに僕ともよりを戻そうと僕にストーカー行為をしていた。けど彼に僕と復縁しろとけしかけていたのは姉さんだった。なぜかって、その頃はもう僕の心は一将さんにあったから──」  俺を通し過去を見るようにして音稀は語る。

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