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第61話
音稀の姉、香奈と親友の関係にある俺の元嫁。俺と元嫁の結婚披露宴に出席した香奈は、スマホで俺らの晴れ姿を撮りまくっていた。そのときのことは俺も覚えている。
けど香奈が撮っていた多くは元嫁とのツーショットではなく、ほとんどが俺オンリーのソロ画像だったそうだ。それを姉から見せてもらった音稀、ひと目見て俺に惚れたんだと。クソ可愛いぜ。
それ以降の音稀はテンプレな行動や発言で自爆、俺に好意があると丸分かりな態度で香奈に気づかれてしまった。すでに彼氏を奪略された後だ、もう二度と自分が気に入ったやつは姉に知られてたまるかと誓っていたのに早くもKO負け。
けどそのときは淡い恋心を勝手に抱いているだけってだけで、どうこうするつもりはないと伝えたそうだ。現に俺は結婚をして他人の夫だ、音稀は香奈のようにひとのモノを欲しがるお古好きじゃねえ。
だが香奈の悪い虫──奪略心──の矛先だけは逸らしておく必要があった。昔から何かと弟に張り合ってくるクソ魔女、姉よりも格段に可愛い弟に嫉妬した浅ましい女のジェラ心は半端ねえ。
親から買ってもらったものは玩具や服、果ては消しゴムひとつでも取り上げちまうババ色根性。だから恋人を奪うことも自然の流れだったと音稀はいう。……淡々と話す内容じゃねえよ、俺の胸がズキズキ痛いじゃねえか。
彼氏を取られたと分かったときは、どん底まで叩き落された気分だったそうだ。実の姉からの背後射撃、さぞ打ちのめされただろう。けど音稀はその底から這い上がった。
ブランクはできちまったが、それでも笑顔を取り戻しまた大学に通うようになった。そしてようやく修復されてきた心に芽生えた恋心(相手は俺な)、落ちた瞬間に敗れ砕けたがそれでもよかった。
ただ、またひとを好きになれた──それだけで音稀は心が温かくなったそうだ。過去の痛みが緩和されただけで、俺を好きになった甲斐があったと話しながら笑う。
でも香奈は奪略女だ、たとえ親友の夫であろうと弟のモノは奪わないと気が済まない鬼畜。ふたたび好きなひとを奪われてしまったら、もう二度と立ち直ることができなくなってしまう。
だから必死に俺に対する恋心を隠し、未だにストーカー野郎に未練があるように振る舞った。その結果は語らずとも判るほど、香奈の性嗜好はダブスタだったというわけだ。
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