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第72話

「初めのうちは断っていたんです。いくらゴミみたいな存在の姉でも姉弟には違いないので、命を奪うなんて残酷なことできるわけがないって。 ですが慶子さんの考えは変わらなかった。姉のやることは理不尽なことなのに、証拠がなければ法で裁けず咎めても抑止力にはなず馬耳東風だ。だったら根源を断つしか自分たちに幸せはこない。 そう慶子さんは僕に訴えつづけてきました。それから程なくして一将さんは違う女性と不倫して、とうとう爆発した慶子さんは夫に愛想を尽かしました」  後のことは説明しなくても分かるだろと音稀に言われ、返す言葉もなく俺はコクコクうなずくしかできねえ。こいつらは、虎視眈々と千載一遇のチャンスをうかがっていたらしい。  俺と音稀がつき合いだしてしばらくは幸せの絶頂にいたわけだが、ストーカー野郎の登場に少なからず俺はストレスを溜めこむようになる。  それに俺は本気で音稀を愛していた。好きなやつは自分だけのモンでなきゃ我慢ならねえ俺、過去とはいえ音稀が他のやつとよろしくやっていた事実が許せなかった。  見当違いな嫉妬だとは思うが、日々悶々としていた俺はつい香奈の誘いに乗っちまった。この女が俺に好意を持ってるのは知ってたから、丁度いい憂さ晴らし程度に考えたんだな。  それが間違いだった。こいつ相当な玉で、俺に「弟にバラされたくなきゃ私とつき合え」と脅してきやがった。で、ズルズルと関係は水面下でつづいていたと。  けど隠していたつもりが実際にはモロバレだったらしい。慶子の誘いをずっと拒んできた音稀だが、ここまで姉貴からコケにされたんじゃ堪ったもんじゃねえ。  可愛さ余って憎さ百倍じゃねえが、愛するが故に俺に対する想いは憎しみでいっぱいになったんだと。それで今回、俺が提案したキャンプ地で計画を実行することにしたらしい。  慶子と入念な打ち合わせをして、俺らに悟らされないよう振る舞いながら実行日を待つ。母親と姉貴の性格を熟知している音稀、旅行の話を洩らせば飛びつくと踏んでいた。  また香奈は弟の目を盗み、弟の彼氏とやりまくりながら音稀を腹んなかで嘲笑するだろうこと、自分がゲーム上の親であると自惚れていることも読みつくしていたらしい。怖え。

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