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第76話

 弾をくり出す爆発音とともに、床に倒れた音稀。撃たれたのは脇腹でなく胸の中心、心臓から鮮血が噴きだす。慶子と一緒に床に倒れ込む俺に、虚ろな目を向ける音稀。  憎しみからじゃねえ、あの日綺麗な心だった頃の音稀が見せてくれた笑顔をしている。つつと流れる涙、最後の力で口を動かしている。  声にして語ることはなかったが、それでも俺にはしっかりと聞こえた。 「愛してます。一将さん」  それが最後に音稀が俺にくれた言葉だった。あごにつたう血、瞬きをやめたまぶた。時を止めた音稀の身体から、魂が消えていくのを俺は呆然と見ていた。 「あっ、ああっ……音稀……音稀……音稀──っ!」  大切な者を奪われ、尋常じゃねえ恐怖と絶望に取り乱す俺。ひざ立ちで頭を抱え唸り苦しむ俺の許をすり抜け、拳銃を取りに慶子が匍匐前進していることに気づく。  絶対に許さん。こいつを殺す。頭に血がのぼった俺、慶子の足を掴むと仰向けにさせ腹のうえに飛び乗る。それからこぶしをつくり、我を忘れボコボコに頬や胸を滅多打つ。 「よくも音稀を──てめえは鬼かっ! 返せよ、俺の音稀をっ!」  もう頭も心もぐちゃぐちゃだ。馬鹿みてえに涙も出るし、自分が何を言ってるかさえ理解できねえ。慶子は俺に殴られながら、それでも嬉しそうに笑ってやがる。  その表情に気づく俺。いったい何が可笑しんだと不気味に思い、怯みぴたりとくり出す腕が止まる。声帯が傷ついたのか、血を吐きながらもにやりと笑う慶子が割れる声で話す。

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