156 / 180
第75話
後ろ向きに倒れる香奈。
涙でぐしょぐしょのツラは凄まじい恐怖に歪み、目を見開いたままで動かなくなった。目玉の痙攣がぴたりと止むと、ゆっくりと瞳孔が開く。
ひたいから流れる赤いもの。香奈の頭の後ろに視線だけやれば、シーツや壁はドス黒い飛沫で染まっているのが分かり俺ビビる。
頭蓋骨を貫き壁にめり込んだ銃弾。それと一緒に頭蓋骨のなかに詰まっていたものが、辺り一面に飛び散り俺は激しい吐き気に襲われる。
「そんな……マジかよ」
手で口を押えそうつぶやく。そんな俺に音稀が最後通牒をよこす。
「マジです。大丈夫、すぐに一将さんも姉さんの後を追わせてあげますから。もう誰にも邪魔されず、地獄で永遠にセックスができますよ」
「さあ慶子さん。いつでもどうぞ」──俺から慶子に向きを変えた音稀。目をつむり「脇腹にして下さい」と頼んでいる。なにをする気だ? おい、まさか、こいつら───
「ええ、一瞬だから安心して」
硝煙の立ち込める血生臭え部屋に慶子の声が不気味に響く。香奈に向けていた銃口を音稀に移動すると、引き金をひきレバーにかかる指がゆっくりと動く。
「まっ、待てっ、けっ慶子──」
ベッドから飛び降り慶子にタックルした。手から離れた拳銃がくるくると床を廻りながら部屋の隅に転がっていく。
ともだちにシェアしよう!