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第5話
「また遊びに来てもいいー?」と葵が木ノ下を見上げる。
「いつでもおいで」
「やったー!」
ぴょんと飛び跳ねた葵を見て、木ノ下があっと声を上げる。
「葵くん。大事なものを忘れているよ?」
「大事なもの?」
木ノ下は背後から小さな袋を取り出した。中にはチョコレートやクッキーが入っているのが見える。
「あ! といっく、おあ、といーと!」
「はい、どうぞ」
優しく葵の頭を撫でる木ノ下に浩之は礼を言った。そのとき、ふと商店街で見たポスターの文字が頭にひらめく。
「トリック・オア・トリート」
唐突な浩之の言葉に、木ノ下は不思議そうな顔で小首を傾げた。公園で初めてこの仕草を見たときの、予感めいたものは間違っていなかった。
「お菓子、俺にはないんですか?」
「え? 川嶋さんに?」と木ノ下は困惑の声を上げる。しかしすぐに、はっとした表情を浮かべた。じわり、じわりと頬が赤く染まっていく。
「あなたには……お菓子は似合わない」
浩之は口元を引き締めて、お菓子を持ってはしゃぐ葵に声をかけた。
「アオ、先に外でタロウにバイバイしておいで」
「うん!」
「え、ちょっと――」
目の前の腕をぐいと引く。木ノ下の身体はバランスを崩し、浩之の胸元に倒れこんだ。顔が近づいてきたことに気づいた木ノ下が、ぎゅっとまぶたを固く閉じる。
だが、予感したことは一向に起こらない。浩之はおそるおそる開かれる目を、楽しげに見つめる。
「えっと……?」
「お菓子をくれなかったから」
浩之は唇の先で囁く。
「いたずらは、また今度」
~Fin.~
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