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第1部 ふるる ~エピローグ~
ジャズの音楽がしっとりと流れる店内はアンティークに囲まれ訪れる人々を優しく迎え入れる。
カウンターでコーヒーの味を楽しんでいる老紳士がいれば小さいテーブルで本を読んでいる高校生、ひそひそと言葉を交わしているスーツ姿の男もいる。
テーブル席の一角で雑誌を広げていた女が視線を巡らせる。目を合わせた店員は微笑むとポケットから注文票を取り出して女の下へと向かった。
「焼きカレー、それとアイスコーヒー」
「畏まりました」
店員はペンを滑らせると赤みがかった茶髪の頭を軽く下げ、そしておやと雑誌に目を留めた。
男性モデルの表紙。そこに記されるは『今春のトレンド』『モテる男の着こなし』『街中スナップ』などの文字。
「メンズ雑誌ですか。女性の方も読まれるんですね」
「たまにね。君もたまには女性向けの雑誌読むと良いよ、女心掴むのに勉強になるんだって」
「覚えておきます」
苦笑いを浮かべる店員に女もくすくすと笑う。
「はー、いい男は目の保養ね。この子なんて私タイプよ、綺麗系でちょっとセクシーで」
「ああ……、良いですね」
女が指を差す先には細身のジャケットを身につけた若い男が写っている。女の言う通りその男はとても端正な顔立ちをしていてスタイルも良い。隅には小さく『YU』と記されている。
「利人君、ちょっといいかな」
「はい」
店長に呼ばれ、店員は女に軽く会釈をするとカウンターの奥に引っ込んでいく。
窓際に活けられた梅の花が軽い風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。
――第1部・了
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