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両片想い3

「先生は他の家でも、家庭教師をしてるんだろ? 迫られたりしてないのか?」 『坊ちゃん以外はみんな高校生で、三軒こなしてます。彼らは大人ですから君のように、むやみやたらに迫ったりはしません』 「……だったら首筋にある赤い印は、誰につけられたんだよ?」  自分の左首を指差しながら指摘してやると、わざとらしく小首を傾げるなり、乾いた笑顔で微笑んだ。 『きっと、蚊に食われたんでしょう。大学に通いながら自分の勉強をしつつ、家庭教師のバイトをこなすことでいっぱいいっぱいだから、恋人を作る暇はないですしね』  横長の大きな皮下出血はどこからどう見たって、蚊に刺された痕じゃないのは明らかだった。 「先生は恋人、欲しいとは思わないんだ?」 『今は必要性を感じないですし、経済的な余裕もないですから、社会人になってから作ろうかと考えてます』 「だったら先生が社会人になったとき、俺を恋人にしてよ!」  左隣にいる先生の右手を握りしめながら、思いきった提案をしてみる。ガキの俺がこんなことを言っても、一蹴されるのは目に見えていた。 『坊ちゃんを恋人に、ねえ……。未成年で同性の君を?』 「だって俺は先生が好きだし。この想いはこれからも、絶対に変わらないから」  掴んでいた先生の右手が、強引に外された。あっと思ったときには、その手は俺の太ももに置かれ、際どいところを撫で擦るように蠢く。 「ちょっ!?」 『俺のことが好きなんじゃなくて、俺の躰が欲しいだけだろ?』 「違うっ! 俺は――」 『ふっ、ちょっと触っただけで、こんなに熱くなって』  嘲笑う先生の声は、今までとは質の違うものに聞こえた。落ち着いた声なのに、やけに耳の奥に残る異質な声。低くて艶のある先生の声を俺だけのものにしたいと、思わずにはいられなかった。 『お前が本当の俺の姿を知ったら、幻滅して嫌いになるかもしれないぞ』 「本当の、せん、せぇ」  クスクス笑いながら強弱をつけて触れる先生の手は、俺の感じる部分を簡単に探り当てて、絶妙な力加減で弄り続ける。

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