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両片想い16

「はじめまして。白鷺と言います」  相手を魅了する微笑みをちゃっかり浮かべながら、目を合わせて挨拶した。  この笑みを見て頬を染めたり、視線を泳がせる挙動不審な行動をすれば、その後の関係はこっちの思うツボになる。 「はじっ、はじめま、して、です……」  どこかあどけなさを残した中学生の壮馬は、熟したいちごのように頬を染めながら、右手で胸元を握りしめたまま、俺の顔をじっと凝視した。  あまりにもまっすぐに見つめられるせいで、思わず俺が視線を外してしまった。素直すぎるその想いに戸惑い、傍にいるのがいたたまれないくらいだった。 『なぁ分かってるんだろ、先生。俺は先生が好きだ』 「はいはい、耳にタコができてしまうかもしれませんね。坊ちゃんに告白されたのは、これで何回目でしょうか」  名前で呼ばずに敬語を使い、見えない線を引いて接した。これ以上近づくなというのを言葉と態度で示しているというのに、壮馬の告白は一向に収まらなかった。  しかもただ告白するだけ――俺と肉体関係を持ちたいとひとことも言わないせいで、俺自身がどんどん追い詰められていく。  今までの教え子と違う壮馬。俺の躰を欲しがらないせいで、ビジネスが成り立たない。そのせいで彼の傍にいるときは、いつも緊張してしまった。  だからこそあえて俺から壮馬に触れて、キスができる権利の駆け引きをした。好きな相手に大事な部分に触れられた壮馬のモノは、今にもはち切れそうなくらいに固くなった。 (――やっぱり俺の躰が欲しいんじゃないか。高校生の教え子よりもチョロい)  交渉後は壮馬から踏み込みやすいように、タメ口で喋るようにしてやった。目の前にエサをぶら下げつつ、勉強をさせることも忘れない。 「坊ちゃんは、俺とキスしたくはないのか? いつでも好きなときに、キスができる権利だぞ」 『そりゃあしたいけど、そんなのよりも欲しいものがあるし』 (キスよりも欲しいものって、俺の躰かよ。呆れた……)  その数年後、他に受け持っていた高校生たちが次々と卒業し、俺は社会人になったので、壮馬の家庭教師のバイトも卒業した。

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