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両片想い36
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俺の名前は石川琢磨。社長の息子の指導を、白鷺課長から任されている平社員である。
朝一の会議を終わらせた白鷺課長はご自分のデスクに座るなり、気だるげな様子で腰を擦りながら、何度目かのため息をつく。
出社したときから物思いにふけるようにまぶたを伏せて、盛大な深いため息をついていた。
具合の悪そうな感じとは明らかに違う、何とも言えないその様子を、白鷺課長を狙う女子社員と、ただの部下の俺は横目で眺めつつ、いらない妄想にかられてしまった。
女子社員の多くは、朝まで彼女とイチャイチャしていたに違いないと考えたんだろう。内心嫉妬に駆られている表情を、それぞれ浮かべていた。
社内にいる独身社員の中でもひと際目立つ白鷺課長だから、それはしょうがないことだと思った。でも俺は見てしまったんだ。
客に出すお茶をなかなか持って行かない社長の息子に、そろそろカツを入れてやろうと給湯室のドアを開けかけて、手が止まってしまった。
社長の息子の肩に顎をのせた白鷺課長が、すぐ傍にあった頬にキスをしているところを、ドアの隙間から覗き見て、心臓が止まりそうだった。
誰にでも愛想がいい白鷺課長が、新人として入社してきた社長の息子を『坊ちゃん』呼びして冷たく扱っていることは、ものすごく違和感があった。
他の社員との違いに理由を訊ねてみたところ、社長から厳しく接するように頼まれていることと、学生時代に彼の家庭教師をして面倒を見ていた関係もあって、その延長線でビシバシしごいていると教えてくれた。
『坊ちゃんは甘やかすと、調子にのってすぐにつけ上がる。石川もその心づもりで接してやってくれ』
なんてことを、言われていたのだけれど――見たことのない優しげな笑みを浮かべた白鷺課長が、社長の息子の頬にキスをした。
(――これは思いっきり、甘やかしているのではないだろうか……)
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