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両片想い38

 俺も同じように白鷺課長を見ると、わざわざ目を合わせながら、微笑まれてしまった。  女子社員がうっとりするような満面の笑みで見つめられるせいか、背後から後光が差しているみたいにキラキラしていた。  こんなふうに微笑まれる覚えがないため対処に困り、引きつり笑いをするのがやっとだった。 「こっこの頬の腫れはですね、飼い猫の猫パンチを食らったというか」  ところどころ声を裏返しながら返事をされたことに反応し、白鷺課長から目の前に視線を移した。 「猫パンチ?」  見え透いた嘘を強調するように、オウム返しをしてやる。社長の息子が思いっきりキョどるせいで、原因が白鷺課長なのをすぐに察した。 「それと寝ぼけたまま、食器棚に思いっきり激突してしまって。ご心配おかけしてすみません。大丈夫です……」 「石川、坊ちゃんを借りるけど、急ぎの仕事をさせたりしていないか?」  いつの間にか傍に来ていた白鷺課長が、俺の肩を叩きながら話しかけてきた。 (さっきまでダルそうにため息ばかりついていたのに、眩しさを感じるこの笑顔。頼み事を断ったりしたら、仕事で何かを返されそうだ……) 「させてはいません。いつもの業務をしてもらってます」 「本人は大丈夫だと言ってるけど、目の前で頬を腫らしたまま仕事をされても、やっぱり気になると思ってさ。ちょっと冷やしに出る。坊ちゃん、行くぞ」  白鷺課長が声をかけたタイミングで、社長の息子は素早く立ち上がり、唇を噛みしめながら部署を出て行く。 (まるで呼ばれたことが嬉しくて必死に隠すために、唇を噛みしめているような感じだったな――) 「さーてと、俺はトイレにでも行って来ようっと!」  社長の息子のお守りから解放されたのをアピールしつつ、ちゃっかりふたりの後をつけた。 「坊ちゃん、そこの空き会議室に待機していてくれ」  部署の扉を開けた瞬間、聞き覚えのあるの声が耳に飛び込んできた。社長の息子は言われた通りに会議室に入り、白鷺課長は左に曲がってどこかに向かう。  俺は迷うことなく、空き会議室の後方にある扉にダッシュ。音を出さないようにドアノブを下げながらしゃがみ込み、するりと中に忍び込んで長机の間に身を隠した。 「お待たせ。そこの椅子に腰かけろ」

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