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両片想い39

 白鷺課長の声を聞きながら、ぎゅっと膝を抱える。  本当はふたりの様子を直接見たかったが、サボってここにいることがバレたりしたら、こっぴどく叱られるであろう。至極残念だけど声と雰囲気だけでふたりの間柄を探るべく、目を閉じながら耳をそばだてた。 「鉄平あのさ……」 「坊ちゃん、場をわきまえろ。ここは会社だろ。名前で呼ぶな」 「分かった。つ、冷たっ!」 「しばらく、それで冷やしとけ。少しは腫れがひくと思う」 (社長の息子の腫れた頬を冷やす何かを、わざわざ持ってきたといったところか。しっかしあの白鷺課長を下の名前で呼ぶなんて、ふたりはやっぱり相当仲が良さそうだな) 「課長、そんなに嫌だったの? 昨日のアレ」  しばしの間のあとに告げられた問いかけは、恐るおそるという感じに聞こえた。 「バカなのか!? すっごく嫌だったから、おまえを叩いたんだっ! それくらい分かれよ!!」  怒りを孕んだ白鷺課長の声が、静かな会議室に響き渡った。  自分が叱られていないのにも関わらず、反射的に躰を縮こませるくらいの凄みのあるものだった。滅多に怒らない人だから、なおさら心臓に悪い。 「どこら辺が嫌だった?」  俺がビビるくらいに迫力のあるものなのに、叱られ慣れているのか、さらにツッコミをかます社長の息子の勇気に、心の中で拍手を送る。 「愚問だな。あんな格好させられたら、恥ずかしいに決まってるだろ」 「俺のを食いちぎるくらいの勢いで、課長の中がビクビクしていたのに?」  あまりに衝撃的な内容に、慌てて口元を両手で押さえた。 (――年上の白鷺課長が社長の息子をヤってたんじゃなく、逆だったとは!) 「あんな恰好をさせられた状態でなんて、感じるわけがないだろ! ただただ恥ずかしかっただけなんだ」 「俺以外、誰も見ていないのに?」 「誰にも見られたくないくらいに、趣味が悪すぎる。もう二度とするなよ」  どんな体位だったのか興味に惹かれたが、白鷺課長も社長の息子も詳しい内容を語ってくれないので、想像すらできない。

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