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両片想い46

「俺も石川さんと同じ、ヤっちゃう側の男だから分かるんだよなぁ『こんなところでシたくない』とか何とか鉄平に言われたら、余計に燃えて手を出したくなるのは必然なんだよ」 「そんなことで燃えるな、馬鹿」  呆れた感じで気持ちを言葉にした白鷺課長に、社長の息子は肩を竦めながら首を横に振る。 「つまりあのとき俺が抵抗していたら、もっと酷いことをされているであろう恋人の姿を、鉄平が目撃することになるんだって。無傷で済んでよかった」  柔らかく微笑んで、ねぎらうように俺の肩を叩く社長の息子に向かって、重たい口を開く。 「……自首すればいいのか?」 「自首も何も俺は無傷だったんだし、別に行く必要ないと思うけど」  あっけらかんとした声で答えられたせいで、二の句が継げられない。 「待てよ。俺としてはこのまま、石川を見過ごすのは危険だと思う。二度としないようなペナルティを、コイツに与えたほうがいい」  白鷺課長の告げた『ペナルティ』という重い言葉が、心の中でずしんと足枷になった。 「わる…悪かった。こんなことはもう二度としない。信じてくれ!!」  今更感が拭えなかったが、しっかりと頭を下げて謝罪の言葉を告げた。 「石川さんのその言葉、信じられるわけがないですよ。他にも、被害者がいることが分かっているんです」 (――コイツ、俺のしてきたことを知っていたから、用意周到に行動していたのか) 「壮馬、それは本当なのか?」  上目遣いで様子を窺うと、白鷺課長が信じられないというまなざしで、代わるがわる俺と社長の息子を眺めながら訊ねる。 「誰とは言いませんけど、相談を受けたのは事実です。石川さんとしては、それが誰なのかが分からないでしょうね。たくさんの新人に、手をかけていたのだから」 「くっ……」  下げた頭を上げられないまま、下唇を噛みしめた。 「男が男に襲われる。そんなことが現実で起こるはずがないというのを、やった結果がコレですよ。相手が訴えないのをいいことに、今までおいしい思いをしてきたみたいですけど、これまでです」 「桜井くんに手を出した時点で、ジ・エンドだったってことか」  吐き捨てるように告げるなり勢いよく頭を上げると、忌々しそうに俺を見る白鷺課長とは対照的に、社長の息子はさっきよりも朗らかに笑っていた。

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