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悪い男10

「おいおい那月ぃ。それはちょっと、言い過ぎなんじゃないか」 「アンタにはこれくらい言わなきゃ、俺の気が済まないんだってば。マジでバカらしい。無意味なことを、体感しまくりじゃないのさー」 「なんだよ、それ」  感動させる告白じゃなかったが、こんなふうに怒鳴られる覚えはない。何がいったい、どうなってしまったんだろう? 「あ~もう!! 抱かれるたびに俺がどんな気持ちでいたか、上條は全然分からなかっただろうね」 「抱かれるたびにどんな気持ちって、そうだな。「やっぱり上條とのエッチはサイコー」みたいに、思ってたんじゃねぇの」 「アホか……」  那月の喋りをわざわざ真似してやったというのに、アホのひとことで片付けられてしまったのはつらい。ここはひとつ、自分の中に渦巻いている気持ちを、熱く語らなければならないだろう! 「これでもな、おまえをとことんまで感じさせるために、ゲイビを見まくって研究したんだぞ。ひとえに愛だよ、愛!」  すると電話の向こう側から、肺の底から吐くような、ものすごい深いため息が聞こえてきた。  他にも小声でブツブツ文句を言い続けたあと、堰を切ったように話し出す。 「アンタが彼女持ちだと分かっていたから、これ以上好きにならないようにしなきゃって、自分なりに境界線を作るべくして、俺は悪い男を演じていたんだ。これって、無意味なことでしょ」 (これ以上好きにならないようにって、もしかしてそれって――) 「おまえ、俺のことが好きだったのか?」 「はっ! ヘタレ野郎に、教える義理はないね」  いつものような那月らしい反発の言葉に屈しないように、縋りつく感じで訴えた。 「那月、お願いだ。教えてくれよ」 「…………」  その後、何度も問いかけたのに、だんまりを決めこまれてしまった。これならさっきのように、ため息が聞こえていたほうがマシだと思える。  那月のリアクションがさっぱり分からないままじゃ、手の打ちようがない。 「おまえの気持ちを聞き出せないんじゃ、俺はこのまま片想いを貫かなきゃいけないのかよ」 「…………」 「躰だけの関係で終わらせたくない。那月の心も欲しいんだけど」  両想いが確定なのにこれまでのやりとりで、すべてが無になるような気がして、焦らずにはいられなかった。

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