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悪い男9
「ちょっとアンタ、酔っぱらってるの? さっきから様子が変だよ」
「酒には酔ってない。那月に酔ってる……って感じ」
しゃがんで頭を抱える視線の先には、名前が分からないオレンジ色の花が、道端に一輪だけ生えていた。
この寒空の下で、風に揺らされても寒さを感じさせることなく、可憐にゆらゆら揺れている様子は、那月によく似ていると思った。
「俺に酔ってるなんて言葉が出てくること自体、寝ぼけてるとしか思えないよ」
「那月にはその……、俺を好きになってほしくて」
変な会話からの告白――マジで格好悪いことこの上ない。
「上條はホント、我儘な男だよねー。彼女だけじゃなく、俺にまで愛情を強請るとか信じられない」
「実は彼女とは別れてるんだ。おまえに声をかける直前に別れてる」
風に揺れている、オレンジ色の花を見ながら喋ったら、言い出せなかったことが、すんなりと口から出てきた。
「またしても嘘をつくっていうのか。大学構内で一緒にいるところを、何回も見てるんだよ」
「それは勝手にアイツが、俺につきまとってるだけなんだ。今でいうところの、ストーカーみたいになっていて、正直困ってる」
「マジなのか、それ……」
「ああ、本当。俺はずっと那月のことが好きだったから、誘いまくっていた」
「やっ、ちょっと待って。いきなり、そんなのことを言われても――」
聞いたことのない照れを含んだ那月の声が、スマホから聞こえてきた。
「こんなありふれた言葉なんか、他の男からも散々言われて聞き慣れてるだろうけど、俺は真剣におまえのことを想ってるから」
「なんで今ごろ、そんなことを言い出すんだっ! 俺とヤる前に、彼女と別れてたくせして!!」
「……俺以外ともエッチしてる那月に、自分の気持ちを言う勇気が出せなくてさ」
「アンタが早く言ってくれたら、悪い男を装わなくて済んだのに」
「悪い男?」
「上條のバカ! ヘタレ! ヤリチン!」
罵倒する言葉を他にも言い続ける那月に、なんて返事をしたらいいか分からなくなってくる。
好きなヤツに容赦なく悪口を告げられて、平気でいられるほど、できた男じゃない。
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