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悪い男8
「本当に悪いと思ってるって。反省してる」
「それで、渡してくれたチョコの意味はなんだよ? 日ごろの感謝を込めて、俺に渡したってところだったりするのか?」
避けていた話題をいきなり提供されたせいで、混乱がふたたび俺を襲った。
「ひっ日ごろの感謝?」
「そう。アンタに誘われて一度も断ったことがない、皆勤賞の俺に対する、感謝の気持ちかなぁと思った」
「それはだな、その……」
(感謝の気持ちじゃなく、那月が好きだという気持ちで渡したって、さらっと言えばいいだけの話だろ)
「らしくないね。いつもペラペラ喋る上條が、口ごもるなんてさ。もしかして照れてるの? わざわざ名前入りのチョコを渡したことを、俺が重く受け取って、変な解釈したらどうしようって」
「変な解釈については――」
「安心しなよ、大丈夫だから! 彼女持ちの上條に、変な気を起こすはずがないって……」
先手を打つような内容に、自分の気持ちを言うタイミングを、すっかり奪われてしまった。
「そ、そうそう。変な気を起こされても、すっげぇ困る。ビッチな那月相手に、俺が本気のチョコを渡すわけがないだろ」
「だよねー。知ってた」
「うん……」
ショックでその場にしゃがみ込み、頭を抱えながら形勢逆転させる策を、必死になって考えた。
下手に「そんなんじゃない」や「違うんだ」などの否定的なワードを言っても那月の性格上、信じてくれないほうが濃厚だ。
「上條に電話するだけ野暮だと思ったんだけどさ、一応確認しておきたくて」
「そっか。びっくりさせたよな」
説得させるような言葉が、脳内に文字として浮かび上がるが、右から左へと虚しく流れるだけだった。
「まったく、驚いたのなんの。もしかして俺のことを、好きになっちゃったかと思った」
「…………」
(くそっ! 那月がわざわざ電話をかけてくれたチャンスを、どうして俺はうまく使えないんだ……)
「上條?」
「…あぁっ、あにょさっ!?」
想いが空回りした結果、口が空回りして変な言葉を発してしまった。しかも声がひっくり返るという、格好悪いオマケつき。こんなの、告白以前の問題だろう。
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