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悪い男7

 そんなことを考えても、那月本人に向かって、好きだと告げられない。何か見透かす感じの嫌な笑いを浮かべながら、鼻であしらわれることが目に見えた。  直接伝えられないのなら、この手はどうだと、バレンタインのチョコに想いをのせてみた。  俺としては、いい考えだと思った。だがしかし、良かったのはここまでで、普通に渡せばいいのに、余計なひとことをつけてしまったのは、間違いなく失敗だったと、いまさら後悔しても遅い。  自宅に向かうべく、気落ちしつつ駅に足を運んでいると、ブルゾンのポケットに突っ込んでいたスマホから、軽快なメロディが突然流れた。  着信音で那月がかけてきたと分かった瞬間、動かしていた足がぴたりと止まる。躰の隅々まで一気に強張り、緊張でぶるぶる震えてしまった。 (んもぅ、なるようにしかならないだろ。怖気づいていてもしょうがない!)  なんとか震えを抑えながら、ポケットに手を入れてスマホを取り出し、通話ボタンを慌てて押す。 「もしもし……」 「ちょっと上條、アンタ何を考えてるの? どういうつもりなんだよ」  恐々とスマホに出た俺に対し、那月は苛立った様子でまくしたてた。 「どういうつもりって、その――」  いつもならどんな態度をされても舐められないように、偉ぶった口調などでやり過ごしていた。だけど自分の想いを込めたチョコを渡すという、大胆なマネをしでかしたせいで、思った以上に言葉が出ない。 「アンタ言ったよね、知らない女から貰ったって。それなのに中身を見たら、アルファベットで俺の名前が書いてあるんだけど」 「……うん」  ホワイトチョコを使ったブラウニーに、アルファベットで文字を入れてくれる店を見つけた。見た目が美味しそうだったのもあって、迷うことなくそれを注文し、『Natsuki』の名前をチョコで入れてもらった。  イニシャル入りの特別な真っ白いブラウニーは、俺から贈ったものなれど――。 「知らない女から貰ったなんて、嘘だったってことでしょ?」 「そ、そういうことになる。素直に渡したら、受け取ってもらえないと思って」 「だからって、嘘つくことないよな」 「まぁ、うん。悪かった」 「全然悪いと思ってないくせに!」  口数が少ない俺を気遣ったのか、那月は苛立っていたはずなのに、くすくす笑いながら文句を言いだした。

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