72 / 332
悪い男6
***
『とにかく上條くんは、私の傍にいればいいんだからね。浮気なんて、もってのほかだよ。あとね――』
ミスキャンパスの彼女の繰り出すワガママが、日毎に厳しくなるせいで、ほとほとまいっていた。そんな微妙な関係を維持しているというのに、周囲から羨望のまなざしが、いやおうなしに注がれる日々にも、正直ウンザリした。
彼女のことが好きで付き合ったはずなのに、その気持ちはどんどん薄れていき、気がつけば自由にのびのびと行動している那月へと、俺の想いは移った。
誰とでも寝るという酷い噂が、大学構内のそこかしこで囁かれているというのに、我関せずというマイペースを崩さない那月に惹かれたのが、好きになった理由だと思う。
だから彼女には別れを告げたのに、別れたくないの一点張りを貫かれ、俺が冷たくあしらってもずっと彼女面された。
断り続けるという面倒くささも手伝ったので、仕方なくそのまま放置し、那月にアタックすることに決めた。
相手は、ビッチと噂されている年上。年下だからと舐められてあしらわれたら、そこで終了なのが分かった。
だから逢うたびに毎回声をかけつつ、必死に食らいつきながら、偉ぶった態度をとり続けてやった。
すると根負けした那月が、触れることを許してくれた。
あからさまな嫌悪感を示されなかったものの、仕方なく付き合ってやるという感じが、肌を重ねているうちに、なんとなく伝わってきた。
見つめると逸らされる、絶対に合わせない視線。煽る言葉をかけても、感じていないをひたすら貫く、強固なメンタル。
そんな気難しい相手を夢中にすべく、ゲイビを何本も見て研究した。ひとえに好きな相手を、とことん感じさせるために――。
『このあと、彼女とヤるんだろ。せいぜい頑張りな。俺もアンタに負けないように、抱かれに行ってくる』
クリスマスイブにプレゼントを渡して、想いを告白しようと思っていたところにかけられた言葉で、真実を告げる勇気が失せてしまった。
躰だけでつながる俺たちは、この先も変わらず、現状維持したほうがいいのだろうか――逢いたいときだけ言葉を交わし、抱きたいときに触れるだけの関係。しかも誘うのは、すべて俺から。那月は動かず、そこに立ちつくしているだけ。
(このままじゃ埒が明かない。アイツは絶対に動かないんだから、俺が自ら行動しないと!)
ともだちにシェアしよう!