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悪い男5

 こんな場所で、目立つことをしやがってと思ったが、大柄な上條が自分を隠すようにキスしていることに気づいた。空いている片手で目の前にある胸を叩くと、呆気なく唇が解放された。 「っ……。アンタ、何を考えてるのさ?」  彼女持ちの上條が、浮気しているのを目撃されないようにとった、配慮なのかもしれない。そんな考えが容易に想像ついたのに、思わず訊ねてしまった。 「那月目当てのヤツに見られたら、嫉妬されるかもしれないだろ。かなりの有名人だからさ」 「自分の保身のためじゃないの?」 「まさか。彼女に見られても構わない」  ひょうひょうと言ってのけた上條を、穴が開く勢いでじっと見つめた。  遠くから見ていた印象とはまるで違う、この男の底の知れなさに、沸々と興味がわいてしまったのである。 (気がつけば、クリスマスイブもヤっちゃったし、こうしてバレンタインにも寝てるなんて、まんま愛人みたいな関係だよねー)  そんなことを思いながら、手にしている物に視線を落とした。  クリスマスプレゼントはなかったくせに、他人から貰ったバレンタインのチョコを横流しするような悪い男に、まんまと手懐けられてるみたいだ。  躰同様に散々気持ちも翻弄されて、いつしか上條の傍にいることに、居心地の良さを感じる始末。押さえるポイントを、きっちり見極めて行動されるせいで、求めずにはいられなかった。 「本命になれなくてもいいやと諦めてるのに、なんだろうな、このムカムカする気持ちは。上條のことが好きな女のコから貰ったチョコを、平気で贈りつける、酷い男だって言うのにねー」  苛立ちまかせに包装紙をビリビリ破り、自分が変形させた箱を開ける。すると中からハート柄で装飾された、一枚の小さなカードが出てきた。 【好きな相手に、あなたの想いが届きますように】  多分、洋菓子店がサービスで入れたものだろう。 (上條にこれを渡した女のコ、可哀想すぎるだろ……)  眉根を寄せながらカードを手に取り、そのままゴミ箱に投げ捨てた。自分の想いも一緒に投げ捨てる気持ちで、勢いよく放り投げた。  次にチョコを食してやろうと、透明の仕切りを外してみる。ホワイトチョコの表面に印字されている、黒い文字を目の当たりにして、思わず手が止まった。 「……なんだよ、これは――」  愛の告白文が印字されているわけじゃなかったが、俺の思考を充分に混乱させるそれを見て、慌ててスマホを手にしたのだった。

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