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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい39
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応接の間で領主との面会を終えたベニーは、書類を手に執務室へ向かった。
主であるローランドが普段しない運転のせいで、疲労を抱えながら帰ってくることを想定し、目を通しやすいように書類をまとめた。あらかじめ質問されそうな部分については、メモを挟んでおく。
短時間で仕事を終えさせて、なるべく早めに休んでもらうための行動だった。
(国王陛下との謁見は、うまくいっただろうか。滅多に顔を合わせない相手ということで、案外会話が弾んでいるかもしれない)
そんなことを考えるだけで、ベニーの口角の端が自然と上がる。
執務室にたどり着き、中に人がいないことが分かっているのに、きちんとノックをしてから入室する。
中に足を踏み入れた瞬間、目の前にある大きな机で仕事をこなすローランドの姿を、ぼんやりと思い描いた。
長い睫毛を伏せて書類に目を通しつつ、スラスラと軽妙な音をたてながら愛用している万年筆を走らせる幻影が、瞬く間に消え失せ、誰もいない空虚な室内に変わる。
主がいないというだけで、そこはかとなく冷たい空気が流れている気がした。
「ローランド様……」
書類を机に置いてから跪いて、誰も座っていない椅子の背をぎゅっと抱きしめた。硬くて温もりのないそれは、ローランドに似ても似つかないものなのに、抱きしめずにはいられなかった。
いつも傍にいることが当たり前になっていたからこそ、ローランド不在の今の現状で、耐え難い苦痛をベニーはひしひしと感じていた。同じ苦痛を何度も味わう未来が待っているのなら、すべてを壊したい衝動に駆られそうになる。
「あの男にローランド様の躰だけじゃなく、心までも奪われるのなら、その前に私の手で――」
ひとりごとを呟いたベニーの想いは、最後まで発せられないまま、胸の奥底で燻り続けたのだった。
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