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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい41

 認識したくないその香りがローランドからしていることに、ベニーは思いきり戸惑った。 (伯爵の別荘で、何かあったのではないだろうか。だから帰りが遅くなって……) 「ベニー悪いが、残りのふたつを屋敷に運んでくれないか?」  両腕に大きな箱を抱えたローランドの手から、無言で段ボールを奪取した。 「ベニー?」  らしくないベニーの行動に、ローランドが何度も瞬きをして顔を見つめる。その視線に耐えきれなくて、避けるように横を向きながら口を開いた。 「このような雑務は、私がやります。ローランド様はお疲れでしょうし、食事の前にお風呂に入られたほうが――」 「ひとりでやるよりも、ふたりで運んだほうが早く終わると思ったのに」 「私は嫌なんです! 貴方様から、あのお方の香りがするのを――」 「香り?」  ベニーの言葉を受けて、はじめて自分の匂いを確認するローランドに、苛立ちが増していく。匂いの上書きをしようと、抱きしめたい衝動に激しく駆られた。段ボールを抱えていて良かったと、思わずにはいられない。  着ている衣類に顔を近づけて、ひとしきり匂いを確かめていたローランドが、首を横に振りながら語りかける。 「よく分からないが、アーサー卿とは何もなかった。あの夜のことを詫びたくらいだ、僕にはもう手を出さないと思う」 「ですが……」 「くどいぞ、神経質になりすぎるな。ほら、段ボールを運んでくれ。早く休みたいんだから」 「畏まりました」  自分の中に渦巻くどす黒い感情や、伯爵と何かあったのではないかという疑問を必死になって押し殺し、ローランドの命令どおりに、執事として忠実に働いたのだった。

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