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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい46
「伯爵、私はローランド様に頼まれて、ここに来ているのです。不躾な言動で、仕事の邪魔をしないでいただきたい。お願いできますでしょうか」
ベニーはやんわりと伯爵に注意を促し、箱の中に落とした書類を拾い上げようとした。その刹那、背後から伸ばされた手がそれを掻っ攫う。
「伯爵!?」
「こんな紙切れ、ローランドには必要のないものだ」
薄笑いを浮かべた伯爵は言うなり、音を立てて引きちぎった。ビリビリに細かく破られた書類が、ベニーの頭に降り注ぐ。花びらのように舞い散りながら降ってきたそれをただ黙って、茫然と見つめることしかできない。
(破かれてしまった書類の内容は、重要なことが記されていないものだったからよかったものの……。このあとも同じように破られたりしたら、たまったもんじゃない)
「あの夜と同じだな。俺を前にして、大切なものを守れない。手も足も出ないといったところか」
「残念ながらそのようです。私は無力な男です。情けない……」
言いながら、膝に置いてる両手を握りしめる。悔しさを隠すことすら馬鹿らしくなったベニーの肩の力が、すとんと抜け落ちた。
早々に白旗をあげれば、伯爵の嫌がらせがなくなるだろうと考えたものの、確証がないだけに、不用意な発言を控えながら全身で脱力感を滲ませて、警戒していることを秘めた。
「ローランドに手を出さなかったのは、機をうかがっていたからだろう? 臆病な君らしいといえば、そうだが」
「信頼関係と一緒に、愛を育めたらいいなと考えておりました。貴方のように無理やり奪うことは、絶対にいたしません。私にとってローランド様は、大切で尊いお方ですので」
「大切で尊いと言いながらも、不埒な関係になりたがってるなんて、執事殿はおかしな男だな」
「大切だからこそ、自分の手で愛でたいと思いませんか?」
「俺の手で穢れてしまったローランドを、まだ愛せるのか?」
ベニーからの問いかけを質問で返した伯爵の表情は、どこか馬鹿にしているように見えた。ローランドに手をつけたという優越感が、そうさせているのだろうと考えついたのだが――。
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