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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい45
伯爵が言わんとしてることは、ベニーにとって知りたくないことだった。
集中して資料の探索をしなければならないのに、怒りや嫉妬に似た気持ちが心の一角に燃え上がり、背後にいる伯爵に意識を飛ばしそうになる。
それでも手にした書類に視線を落として、何とか文字を読みこもうと努力した。
「雪のように白い柔肌に軽くくちづけただけで、簡単に痕が残るところも――」
「おやめください」
目で字を追っていても、そこに書かれている内容が頭にまったく入ってこない。
「おやめくださいなんて言葉を言える立場じゃないことくらい、分かっているだろう。一介の男爵の執事ごときが」
「申し訳ございません……」
ローランドに託された大切な資料を握りつぶさないように、力なく箱の中に落とした。
(自分の中にあるモヤモヤした気持ちも、一緒に放り投げることができたらな――)
「はじめて他人に触れられた衝撃で、イキそうになるのを必死に堪えるローランドの姿に、愛おしさを感じた」
伯爵のセリフがきっかけになり、苦悶するローランドが浮かんでしまった。
大きなベッドの上で、息を切らしながら躰をくねらせ、絶頂しないように我慢する映像が、まぶたの裏に流れてしまう。それをなきものにせねばと、ぎゅっと目をつぶり、大袈裟な感じで首を横に振った。
「執事殿は、想像以上にいい反応をしてくれるね。俺の話だけでそんなふうに拒絶されると、どんどんしたくなってしまう」
「無駄話はあとにしてもらえると、大変助かるのですが」
「君が現在進行形で知りたい内容だと思ったから、俺は口にしているだけだよ。親切心を感じてほしいくらいだ」
「下世話ですね」
「その切り返し、やっと執事殿らしくなってきたじゃないか」
伯爵のペースにまんまと乗せられることに、どんどん嫌気がさしてくる。
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