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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい44

 ドアノブを握りしめたまま固まるベニーの背を見ながら、伯爵が嬉しさを隠しきれない声色で語りかけた。 「俺の告白を聞いたローランドは、頬を真っ赤に染めて、とても困った顔をしていてね。すごく可愛かった」 「…………」 「執事殿は嫌かもしれないが、躰からはじまった恋を実らせるために、俺は全力で彼を堕とす」 「おやめください。ローランド様の輝ける未来を、貴方は壊すおつもりですか」  ベニーは力なくドアノブから手を離して、顔だけで振り返った。 「恋のひとつやふたつしたくらいで、ローランドの未来が壊れるわけがないだろう」  軽蔑の眼差しで見つめるベニーの視線を受けても、伯爵は平然としたままだった。 「恋をしたことがないローランド様にとって、伯爵が与えるそれは、毒になるのでございます」 「毒か……。やり方次第では、薬に転用することもできそうだが? やってみせようか」  肩を竦めながら自分を見下ろす伯爵の態度に、ベニーは苛立ちが隠しきれないところまで追いつめられた。  これ以上伯爵と話をしても埒が明かないと判断し、顔を背けた勢いでドアノブに手をかけ、躰を使って中に押し入る。客間と思しき部屋の隅に、段ボールが雑然と積まれていた。  無言のまま部屋の中央に進むと、扉を閉めた音のあとに、椅子に座るような音が聞こえた。 「伯爵みずから、私を見張るおつもりなのでしょうか?」 「見張る必要はないだろう。ゼンデン子爵の仕事を引き継ぐローランドのために、質問があれば答えようと思ってね」 「お忙しいでしょうに、ありがとうございます」  ベニーは段ボールの傍らで姿勢を正して、伯爵に一礼した。 「陛下から、面倒を見るように仰せつかっているからね。遠慮なく、何でも聞いてくれ」  丁寧にお辞儀をしたベニーに、伯爵は唇にたたえた笑みを消し去る。 「…………」  ただならぬ雰囲気を感じて、身構えながら伯爵に背を向けた。  ローランドに指定された印のついた箱を探し出し、持って帰るものとして積み上げる。それ以外のもので気になるものがないか、手をつけていない段ボールの中身を確認し始めた矢先だった。 「執事殿としては、ローランドのすべてを把握しておきたいだろうね。そこに転がってる資料よりも、重要なことだろうし」 「だいたい、把握しているつもりですが……」 「君なりに把握しているつもりだろうが、君の知らない彼の顔を、俺だけが知っているだろう?」

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