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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい43

「何も聞いていないのなら別にいい。このまま、ゼンデン子爵の資料がある部屋に案内する。ついて来てくれ」  伯爵はベニーの質問を受けつけない感じで身を翻し、さっさと屋敷の中に入ってしまった。 (やはり昨日、ローランド様と伯爵との間に、何かあったのだろうか――)  ベニーは自分の中にある不安を悟られぬように、あえてにこやかな表情を作った。白手袋をつけた両手をぎゅっと握りしめながら感情を押し殺し、伯爵のあとを追う。 「男爵の仕事の熱心さを昨日は目の当たりにして、舌を巻いてしまった。見習わなくてはいけないね」  チラッとこちらを振り返りながら様子を窺う伯爵に、ベニーは口角をあげて微笑みかけた。 「あまりに熱心にお仕事をされるものですから、休憩を入れるのも一苦労させられている次第です」  執事としての苦労を口にした途端に、伯爵の顔が訝しいものに変わった。 「執事殿らしくない切り返しだな。俺に弱みを見せるなんて」 「ローランド様はああ見えて気難しい方なので、扱いに注意していただきたく、口にしたまでなのですが」 「気になっているんだろう? 俺とローランドの間に何かあったって」  伯爵はベニーの核心を突くひとことを告げて立ち止まると、質素な扉の前に佇んだ。ベニーは伯爵に飛びかかって追求したい気持ちを断ち切るように、首を横に振ってやり過ごした。 「伯爵、この扉のむこうに資料があるのですね? 時間がないので、先に失礼させていただきます」  軽く一礼をしてから伯爵の前に出て、ドアノブを掴んだ瞬間だった。 「ローランドに気持ちを告げた。好きすぎてどうしていいか分からないと、彼を抱きしめながら言ってやった」 「つっ!」  掴んだノブを回して中に入ればいいだけなのに、凍りついたようにそこから動くことができなかった。  衝撃的な伯爵の告白と、昨日のローランドの態度を考えただけで、真実がどれなのか分からなくなってくる。

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