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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい51
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ローランドがメイドに通された部屋は、この間おこなわれた舞踏会の大広間の、すぐ傍の部屋だった。
扉を開けて中に通されると、部屋の真正面にある窓際にアーサー卿がいて、龍が描かれた東洋の壺を持ったまま、ローランドを出迎える。
「やあ、逢いたかったよ男爵」
「シュタイン子爵の屋敷で顔を会わせるというのに、わざわざここに呼ばれるとは思いもしませんでした」
ローランドは扉の前で小さく頭を下げてから、アーサー卿に向かってにっこりと微笑んで、悪態をついた。それを目の当たりにしたメイドが、雲行きが怪しくなる前にと、慌てて退室しかけたときだった。
「これから男爵と大事な話をする。しばらく誰も通さないように、皆に伝えてくれ」
手にした壺を暖炉の上へと丁寧に置いたアーサー卿は、振り返りながらメイドに命じた。
「かしこまりました。失礼いたします」
決まり悪そうな顔をして出て行くメイドを横目で眺めてから、アーサー卿を見据えつつ、ローランドは素早く思案する。
(奪われた書類を返してもらうだけなのに、大事な話とはいったい……。それにしても洋間にぽつんとひとつだけ、東洋の壺を飾るとは。随分と浮いて見えるが、それについてどうだと聞かれたら、答えるのが厄介だな)
いつでも逃げられるように、扉の前に立ち竦んでスタンバイするローランドに視線を合わせたアーサー卿が、ゆっくりと近づいてきた。
「俺の気持ちを知ってて、そんなつれないことを言うんだね」
「恋多き貴方に口説かれても、その想いが純粋なものにはみえないから、っ!」
発した言葉を告げ終える前に、アーサー卿がローランドの顔の横に片腕を突き立てた。至近距離で見下ろされて、躰が恐怖に竦みあがる。
「たくさんの恋愛をしてきたからこそ、君に対する気持ちが、純粋なものだと分かるんだけどな」
「僕はそんなことに、うつつを抜かしている場合ではありません。奪った書類の返却を、どうかお願いします」
「そういう強気な態度をされると、ますます組み敷きたくなる」
上目遣いで睨みをきかせたローランドの顎を強引に掴み、アーサー卿は無理やり唇を重ねた。
「んっ!」
肉厚の舌が容赦なく絡んできて、逃げようにも狭い口内の中では無理だった。それでもなけなしの抵抗とばかりに、両腕を使ってアーサー卿の大きな上半身を必死になって押した。
「せっかくのいいところを邪魔するこの可愛い腕は、こうしてなくしてしまおうか」
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