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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい72
「なるほど。ご夫婦で、伯爵のお世話になっておられたんですね」
ローランドにこれ以上のショックを与えないように、言葉を選んで口にしたベニー。執事として主をいたわる姿に苛立ったのか、未亡人は突き放すような口調でまくしたてた。
「結婚する前からデキていたそうよ。だから亡くなったあの人の子を、私が孕むのは無理なの」
「死人に口なしでは、それを証明するすべがないですよね?」
伯爵に訊ねると、笑いながら簡単に吐露しそうなネタだったが、未亡人を追い込むために、ベニーはあえて問いかけた。
「あの人が死んだのだって、もとはといえば、アーサーの行き過ぎたプレイのせいなのよ。クリシュナ男爵にだって、身に覚えがあるでしょう?」
憤慨した未亡人に疑問をぶつけられても、ローランドは素直に頷けなかった。首を横にして、突き刺すような視線から逃れる。
「やれやれ。亡くなった子爵の原因をつくった伯爵を脅し、子種を頂戴したといったところでしょうか」
「そんなこと、この私がするわけないでしょう! アーサー自ら、愛してくれたのよ」
「いろんな意味でやり手の伯爵が、貴女に脅される前に先手を取っただけのこと。自分が愛されているなんて、よく言えますね」
ベニーは嘲うようにニヤニヤしながら告げて、あからさまに未亡人を蔑んだ。キツい言葉を吐き捨てながらも、細身の躰を抱き寄せる腕に力をこめて、ローランドに大丈夫なことをアピールする。
「アーサーは言ったわ。美しい君を、永遠に独り占めにするって。誰よりも愛してるって」
「伯爵の性癖をご存知なら、どうしてそれを貴女になさらないのでしょう」
「この私を、大切に扱っているからに決まっているでしょ!」
たたみかけるベニーのセリフを聞き、未亡人は自分の胸をバンバン叩くという、大袈裟なジェスチャーをまじえて返事をした。空回りしている様子に、ローランドは額に手を当てながら目を閉じる。
「理解いたしました。子爵夫人がローランド様よりも、世間知らずだということに」
「はあ? それは、どういうことかしら?」
「自分の性癖をぶつけられない相手とはすなわち、反応のないただの玩具にすぎません。たとえるならそうですね、ダッチワイフかオナホ以下ということです」
「なんですって!?」
「ご自分の身分もはかれない方と、これ以上お話をしても、時間の無駄になりそうですので、お暇させていただきます。行きましょう、ローランド様」
「待ちなさいよ、この恥知らず!」
「ごきげんよう、オナホ夫人」
ベニーはニッコリ微笑みながら、さらっと毒を吐き捨て、開けっ放しの扉から主とともに脱出した。ローランドはぽかんとしたまま、車に向かうしかなかった。
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