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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい71

「お気に入りって、世の中のことを何も知らない、ただの若造じゃない」 「ええ。世間のことにはめっぽう疎い、片田舎住まいの若い男爵でございます。ですが何も知らないというのは、知る機会があるということ。可能性は無限大なのです。それに――」 「な、なによ?」  語尾にいくにしたがい、声の迫力が増すベニーに、未亡人の顔から笑みが消えた。赤茶色の瞳を輝かせながら不敵に笑う、自信満々な顔を見ようと、ローランドは踵をあげながら黙って見つめる。 「計算高くない無垢なところが、伯爵の心を惹きつけて止まないのです。腹黒くあらせられる子爵夫人には、けして真似のできないことでしょうね」  とことん主を持ちあげるベニーの背中に、ローランドはそっと縋りついた。頼りがいのある大きな背中はとてもあたたかく、傷ついたローランドの心を癒すものだった。 「どうして僕は、おまえを好きにならなかったんだろう。こんなにも想ってくれているのに……」  ローランドが囁いた言葉が小さかったため、激昂した未亡人には聞こえなかったらしい。ベニーに向かって「私にそんな口をきいていいと思ってるの!?」など、次々と罵詈雑言を浴びせる。 「私はこれまでの経緯から、察したことを口にしただけでございます。どうぞ伯爵に仰ってください。男爵の執事にやり込められて、腹が立って仕方がないと」 「ベニー、そんな進言をしたら――」 「ローランド様に、ご迷惑がかかるやもしれませんね」  抱きついている背中を揺らしながら、ローランドが心配しているというのに、浅いため息をついて振り返ったベニーは、瞳を細めて笑いかけた。反省の色のない様子を目の当たりにして、ローランドは思わず吹き出す。 「クリシュナ男爵共々、失礼な方ね。身重の私を祝うわけでもなく、暴言を吐き捨てるなんて」  苛立ちを表した未亡人のセリフに、ベニーは魅惑的な笑みを唇に湛えながら、すっと姿勢を正した。背筋を伸ばした背中から、ローランドは手を放す。こんな状況下だからこそ、頼ってばかりでは駄目だと考え、ベニーの隣に並んだ。 「子爵夫人のお腹のお子が、確実に伯爵のお子なら、お祝いの言葉を述べましょう」  ベニーは胸に手を当て、細めていた瞳に目力をこめる。躰から滲み出る気品は、王侯貴族に引けをとらないものだった。隣にいたローランドが漂う気品に臆して、後ろへ退いた。  毅然とした態度を貫くベニーに、未亡人は切羽詰まった表情で叫ぶ。 「だって亡くなったあの人は、女が抱けない躰だったのよ。それこそ、アーサーとデキていたんだから!」  未亡人の爆弾発言に、ふたりそろって言葉を飲み込んだ。  心配したベニーは振り返って、背後にいるローランドの様子を窺った。躰が微かに震えるのを見、片腕で強引に抱き寄せて、震えを止めにかかる。

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