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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい75
「想いの深さではなく質と表現したほうが、わかりやすいかもしれませんね。それこそ私の黒い愛に触れて侵食されてしまったら、余程のことがない限り、相手は後戻りができないでしょう」
やけに淡々とした口調で説明される言葉に、ローランドは思いきって顔を正面に向けた。ベニーがどんな顔をしているのかわからないのに、向けずにはいられない。それくらい、不穏なものを感じとった。
「侵食されてしまったら、どうなるんだ?」
「どうなると思います?」
ふと一瞬だけ振り返ったベニーの瞳に、ローランドは射すくめられる。ほんの僅かだったが、赤茶色の瞳が異様に赤く光った気がした。
涙目を両手で擦ってもう一度よく見てみるが、そのときにはすでに前を向いていた。ルームミラーに映る両目も、見慣れたものだった。
「ああもう。質問してるのに、疑問形で返すなよ」
目頭を摘まんで俯き、疲れをやり過ごそうとするローランドを、ベニーはルームミラーで一瞥してから、ハンドルに向かって頭を下げる。
「大変失礼いたしました。ローランド様のようにピュアな方は、毒気に当たりやすいので、どうかご注意くださいね」
「僕はピュアなんかじゃない。アーサー卿の毒気に、すでに当てられてしまったのだから」
「それでしたら、毒には私の毒をもって制しますか?」
言いながらローランドに『それ』を見せる。
「これは?」
ローランドは恐るおそる『それ』を両手で受け取り、まじまじと見つめた。手の中にある鈍い光を放った重量感のある『それ』を、息を凝らすようにじっと眺めてから、視線をベニーの背中に戻す。
「私が護身用に、いつも持ち歩いているものです。ローランド様に見せるのは、はじめてでしたね」
「なにかあっても、おまえは素手で対処していただろう。こんな物騒なものを持ち歩いているなんて、全然気がつかなかった」
「ローランド様に命の危険が迫った場合の切り札として、所持しておりました」
「そうか……」
「『それ』を使って、抗うことのできない恋を、ご自分の手でどうにかしてみせますか?」
告げられた言葉の意味が理解できなかった。持っているものに視線を落としながら、『それ』の扱い方について思慮する。
「ベニー……、おまえはいったい」
「伯爵にお気持ちが通じなかったときは、私とともに心中すると言ってくださったお言葉、とても嬉しゅうございました。しかしながら、それが貴方様の本当の願いではないことに気づいておりました。ローランド様と長年一緒に過ごした、私だからわかるのです」
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