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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい18
ベニーは頬を抓るローランドの手を、容赦なく叩き落とした。かなりの力で叩き落したので痛いのは当然だと思うのに、目の前にある顔はそういうのをいっさい見せない。むしろ、この状況を面白がっているような表情だった。
「やられたらやり返す。そのほうがベニーちゃんらしいじゃないか」
久しぶりに聞いたちゃん付けに、ベニーの頬が自然と緩んだ。
「先輩……」
思わず懐かしい呼び名で、ローランドを呼んでしまった。
「それとも明堂くんを諦めて、俺と付き合っちゃう?」
「その言葉、私が先輩にかけてるものなのに……。もしかして、その気になったんですか?」
異性愛者を豪語するローランドに誘いをかけても、拒否反応を見せながら、いつもうんと嫌がった。そんな彼をおちょくる言葉として使っていたのに、逆に誘われるとは思いもしなかった。
「そんなわけないだろ。おまえにまともな判断力が残っているかを、あえて試してみただけだ」
ローランドはベニーに叩かれた甲を撫でつつ、ジト目で睨みを利かせる。
「まともな判断力すら、ないと思われてしまったとは。これじゃあダメですね……」
まぶたを伏せて肩を竦めると、ローランドが頭をぐちゃぐちゃに撫でる。首が動いてしまうくらいのそれを、苦笑いしながら黙って受け続けた。
「逢えるかどうかわからないまま、あちこち転移して探した苦労は、今こうして報われた。相手に恋人がいても、奪えばいいだけのことだろう?」
「略奪――それこそ既成事実を作ってでも、奪ってしまえということでしょうか」
ローランドは顔を引きつらせながら怖がって、ベニーを撫でていた手をサッと退ける。
「怖っ、俺そこまで言ってないし。ここは日本、明堂くんは未成年。一応法律を」
「守りませんよ、そんなもの」
「うわぁ、言いきりやがった」
真顔でさらっと宣言したベニーの心は、いつの間にか陰ったものがなくなっていた。だからこそ堂々と胸を張って、明堂会長に対抗できる気がした。
「盗聴器を仕掛けたり、誰かをそそのかして私を襲った明堂会長と渡り合うのに、法律なんて守っていたら戦えません」
「調子上がってきたな、それでこそベニーらしい」
「……………」
「おまえひとりで戦った末に暴走したら困るから、俺が手伝うって言ってるんだ。明堂くんについては任せておけよ」
「……あんまり深入りしないでくださいね。先輩、そこそこいい男なんで心配です」
「そこそこってなんだよ。特上と言ってほしいくらいだけど?」
「じゃあ、まあまあで手を打ちます」
「ここは手を貸す俺を、持ち上げておいたほうがいいと思うけどな」
互いに目線を合わせたタイミングで、同時に吹き出す。ベニーは大笑いしながら、心の中でコッソリ礼を言った。気落ちした自分を励ましてくれた頼もしいローランドに、面と向かって言えない理由は、図に乗ってアレコレ手を貸すことを防ぐためでもあった。
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