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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい19
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(任せとけって豪語したけど、どうやって明堂くんを保健室に向かわせるかだ――)
まったく作戦を考えていなかったローランドは、空き時間を使って校内をウロウロしながら、ぼんやり考えにふけっていた。
ベニーの恋を成就させたい気持ちがあったからこそ、「俺が彼をここに来るように仕向ける」なんて自信満々に言い放ったものの、迷案すら思いつかない状態が続き、次第に嫌気がさした。
「そういやまだ、この学校の屋上に行ったことがなかったっけ……」
そのことにふと気がついて踵を返し、傍にある階段を踏みしめた。一段一段上りながら、ベニーを誘ってみたかったなど、最初に考えていたことと違うものが、ローランドの頭に思い浮かんでは消えていく。
(いい加減な性格がここまで極まると、笑い話にもなりゃしない。こんなんだから、ベニーにいつも怒鳴られるんだよな)
貴族の屋敷で執事をしていただけあり、すべてにおいてきっちりしているベニー。きっちりしすぎて、堅苦しさを感じることもしばしばあったが、手網のない馬のように、あてもなくフラフラとどこかに行ってしまうローランドを言葉巧みに誘導し、目的を与えて行く先を導く、名騎手といった感じだった。
最上階まで上がり、鼠色の扉のドアノブを回すと、あっけなく外に出ることができた。
「ラッキー。今日はいい天気だし、ゴロンと横になって昼寝――」
言いかけて、足がぴたりと止まる。そこには自分をまじまじと見つめる、明堂の姿があった。
「ローランド先生、どうしてここに……」
「それは俺のセリフだぞ。この時間、授業中だよな?」
壁に寄りかかって座り込んだまま、呆然と見上げる明堂の手もとの文庫本が、ローランドの目に留まる。
「こうして授業を堂々とサボって、担任の信用を損なうことを自らしているせいで、何かあっても助けてもらえないのは、当然だと思う」
学生時代はサボってばかりいたローランドだったが、教師としてこうしてサボる生徒の指導をする側になるとは、思ってもみなかった。
「僕のこと、見損ないましたか?」
「全然。理由があるからサボってるんだろ」
あっけらかんと告げるなり、並ぶ形で同じように座った。目の前から見える青空がやけに眩しくて、瞳を細める。
「どうしてローランド先生は、僕を叱らないんですか?」
質問攻めする明堂をあえて見ずに、ローランドは流れる雲をじっと眺めた。
「それは、いじめられてるところを見てるからさ。ここに入学したときは、そんなことされるとは思わなかったろ」
「僕、高校生になって、初めてスマホを持つことを許されたんです……」
「早いコだと、小学生から持ってる子どももいるけどな」
明堂から唐突にスマホの話題を出されたため、原因がそこにあるのを難なく悟った。
「クラスメートで友達を作るために、アプリでメッセージのやり取りをしたんですけど、そこにルールがあるのを知らなくて……」
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