196 / 332
抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい20
「ルール?」
きょとんとして訊ねたローランドに、明堂はまぶたを伏せて説明する。
「カースト制度っていう上下関係が、僕の知らない間に、クラスの中でできあがっていたんです。なんでも下位の人は上位の人に、メッセージを送っちゃダメなんだそうです」
「巷で噂の、スクールカーストってやつか。つまり下位のヤツらは上位の会話を、既読無視すれってことなのか?」
ローランドは腕を組みながら明堂に視線を投げかけると、それに反応するように静かに頷いた。
「僕、新しい環境に慣れることに必死になって、周りに合わせなきゃいけないって、焦ってしまい……」
「なるほど。周りに合わせようとして、アプリの会話にたくさん乱入した。不器用なりに一生懸命、コミュニケーションをとったと思っただろう?」
持っている単行本を両手で握りしめ、悔しそうな表情をありありと見せた。
「クラスメートと仲良くなろうと、勇気を出して書き込みしたのに、そのせいでペナルティが課せられて、カーストの最下位になりました。友達どころか、奴隷みたいな扱いを受けてます……」
日の光を浴びた朱みがかった髪は眩いくらいに輝いているのに、その下にある黒曜石のような瞳は翳りを帯びて、心の闇を表しているように、ローランドの目に映った。
「ちなみにカーストの上位にいるヤツは、どうしてその地位にいられるんだ?」
「クラスの中で目立ってる人や、部活で活躍してる人と、その取り巻きですね。他にもご両親の仕事の関係、官僚に勤めていたり、弁護士やお医者さんだったり。芸能界と繋がりがある人も、上位にいます」
「そのカースト制度っていうのは、全学年共通なのか? だって君には、お兄さんがいるだろう?」
問いかけの中の『お兄さん』の言葉を聞いた瞬間、明堂は一瞬だけ躰をビクつかせた。隣でそれを目の当たりにして、ローランドの口角に少しだけ笑みが浮かぶ。
(こりゃどう見ても、愛し合ってる兄弟という反応じゃない。よかったな、ベニー)
「兄さんは僕と違ってできがいいので、クラスの中で浮くようなことはないと思います。むしろ、中心になって引っ張っていくというか」
「まぁ会長するくらいだから、引っ張っていくのは得意分野だと思うけどさ。そのやり方がなぁ……」
「なにかあるんですか?」
上目遣いで見つめる明堂に、ローランドは顔の前で激しく片手を横に振りまくった。
「いいや、ないない。それよりもそのお兄さんのこと、明堂くんは好きだったりするか? もちろんこれは、恋愛感情を含めた話だ」
「れれれ、恋愛感情なんてそんな! 畏れ多くて無理ですよ」
「畏れ多いねぇ。じゃあ他に好きなヤツいるの? 気になるヤツでもいいや」
ともだちにシェアしよう!