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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい42

「君は、地位のある男に恋をしました。遊び慣れたその人を、心の底から愛したのです」 「遊び慣れた人を好きになった時点で、無理な恋なのに」 「私もまた、そんな君に恋をしたのです。執事として日々仕えながら、どんどん傷ついていく大切な主を、見過ごすことができませんでした」  震える声で告げられたセリフで、手元からベニーの顔に視線を移す。眉間に皺を寄せて苦しそうにしている顔を目の当たりにして、つらい恋をしていたのが手に取るようにわかった。 「ベニー先生?」  ベニーは明堂の視線から顔を逸らし、何もない空間を瞳を細めて眺める。まるでそこに、男爵の自分がいるような錯覚に陥った。 「私は主に選択を委ねました。持っていた拳銃を見せて、これを使うかどうかと」 「僕はそれを使って、自殺したんですね」 「ええ。愛する人を手にかけたあと、亡くなりました」  明堂は繋がれていない手でベニーの躰に触れて、ちょっとだけ揺すった。愛おしそうに見つめる先にいるであろう過去の自分ではなく、現実にいる自分を見てほしかったから。 「私はお助けすることなく、ローランド様が亡くなるのを、外から眺めていたのです……」 「ベニー先生は後悔しているんですか? 僕に拳銃を見せたことを」  ほしいものを強請るような明堂の仕草と、心の奥底に秘めたことを知ろうとする問いかけで、ベニーの視線が胸の中に移動する。 「後悔しているのは拳銃を使って、私を射殺してほしかったことですね」  問いかけの答えは、明堂が想像していたこととは違っていたため驚き、さきほどよりも大きな声でふたたび質問を投げかける。 「そんなこと、男爵の僕がすると思いますか?」  明堂のセリフを聞いたというのに、ベニーはすぐに答えなかった。まぶたを伏せて少しだけ悩んだ表情を見せてから、噛みしめるようにゆっくり言の葉を繋げる。 「抗うことのできない恋だからこそ、愛する人の手で死にたかった。すべてを捨てて楽になりたかったのに、私はあえてそれをしませんでした。違う方法を思いつき、確率の低い望みにかけたのです」  ベニーは質問に答えず、なぜか自身の恋愛について語った。抗うことのできない恋という言葉が、明堂の心に焼きつくように自然と残った。

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