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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい41

***  動けなかった明堂の代わりに下着から制服まで、ベニーがきちんと着替えさせた。あまりに手際よくやってのけるので、あえてされるがままにした。自分がやるよりも綺麗に結ばれたネクタイを見ているうちに、ベニーがいつの間にか着替えを終えて、ベッドに座って明堂を眺めていた。  なんだか気恥ずかしくなり、黙ったまま隣に並んで腰かける。 「こうして弘泰を着替えさせていて、改めて思い出しました。自分が執事だったことを」 「ベニー先生は、執事をしていたんですか?」 「ええ。君の前世はローランド・クリシュナ・アジャという名の男爵で、私は君の専属執事をしておりました。着替えからなにからすべて、私が手を貸していたのです」 「僕が男爵!?」  あまりの衝撃的なことに、大きな声を出して驚きを示す。目を丸くしたままでいる明堂を落ち着かせようとしたのか、ベニーは頭を優しく撫でながら口を開く。 「病気で亡くなったお父上に代わり、若くして男爵を継ぐことになったのです」  流れるように説明されたせいで、違和感なく聞いていた明堂は、やっと疑問点に気がついた。 「……あれ? 僕の前世を、どうしてベニー先生が知っているんですか?」  驚きを通り越して唖然とした表情で、隣にいるベニーを見上げた。すると頭を撫でていた手を明堂の利き手に移動させて、ぎゅっと握りしめる。  手から伝わる温もりのお蔭で、多少なりとも落ち着くことができた明堂を確認後、ベニーは前を向いたまま語りかける。 「私の前世は、自殺した日本の刑事でした。この世でおかしてはならない自殺という罪を償うために、こうして蘇ったのです。選ばれし人間として」  見つめる視線に絡めるように、ベニーも明堂を眺めた。 「選ばれし人間……」 「違う時空で違う人間に生まれ変わり、そこで出逢った最愛の人と、人生の最期まで過ごすことができたら、罪を償ったことになるというシステムなんですけど、前世におこなった業が深くかかわるせいで、簡単に幸せになることができないのです」 「もしかして、それって――」  心当たりがありすぎて、すぐに言葉にすることができなかった。自分の身の回りの出来事を思い出しているうちに、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。 「弘泰、君も私と同じく、過ちをおかした人間なのです」 「男爵だった僕は……、自殺していた、なんて」  血の気が落ちていくことを、ベニーの手の温もりから知る。どんどん冷たくなっていく繋がれた手を見ていたら、ベニーは明堂を抱き寄せた。ストーブの傍にいるような温かさを触れているところから感じてほっとし、落ち着きを取り戻す。

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