216 / 332

抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい40

 明堂に握られたままのベニー自身が、無意識にビクついた。静まり返る保健室の中はさきほどまでの行為を忘れさせるような、冷たい空気が漂いはじめる。 「ベニー先生とはじめて逢ったあの日、なぜだか懐かしい気持ちになったんです。それだけじゃなく、はじめてあったばかりだというのに、安心感というか信頼して大丈夫みたいな確信が、自分の中にあって」 「弘泰……」 「うまく説明できないですけど、だけどこれだけは言えます。僕はベニー先生が好きです」  明堂から愛の告白を受けたというのに、ベニーは素直に喜ぶことができなかった。それは以前から待ち望んでいたものなれど、明堂の中にあるもうひとつの人格が自分を嫌っているせいで、思いっきり躊躇していた。 (――口惜しいですね。このまま弘泰とひとつに繋がりたいというのに、それをしてしまったら、もうひとりの彼に嫌われてしまうのですから……) 「興を削がれました。お願いです、この手を放して服を着てください」 「でも……」 「弘泰が手を放してくれたら、コレは勝手に落ち着きます。気にしないでください。それと弘泰が説明できなかったところを、私が教えてあげたいのです。聞いてはもらえませんか?」 「わかりました」  納得のいかない表情の明堂に、ベニーは意を決して口を開く。互いに服を着てからでも遅くはなかったのに、それを告げずにはいられなかった。 「弘泰の中にいるもうひとりの君は、前世を覚えているのです。そのせいで、私をすごく嫌っています。君が死んだ原因を作った私と、深くかかわりがあったせいで……」 「僕が死んだ原因を、ベニー先生が作った?」 「とりあえず服を着ましょうか。大事な生徒に風邪を引かせたりしたら、先生失格になってしまいます」  言いながら落ちていたワイシャツを拾い上げ、明堂の肩にかけながら、切なげなまなざしをそそぐ。そんなベニーを見つめるのが精一杯で、明堂はそこから動くことができなかった。告げられたセリフが、ずっと頭にこびりついていたから。

ともだちにシェアしよう!