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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい44

「マモルには前世の記憶があります。きっと一秒でも長く、愛する人の傍にいたかったのでしょう。たとえそれが、報われない恋だとしても」  ベニーはマモルの気持ちを慮ったのか、噛みしめるように告げる。 「マモルはまだ、その人のことが好きなのでしょうか?」 「心の内までは……。わかっているのは、私が嫌われていることです」  自分が知らないベニーとマモルとのやり取りに、明堂は寂しさを覚える。好きな人のことならなんでも知りたいと思うのに、自身の中にいるマモルからは、相変わらずなにも伝わってこなかった。 「弘泰は、これからどうしますか?」 「これから?」 「私はこれからマモルといい関係を築くために、話し合いを重ねようと考えています」  目の前のことにいっぱいいっぱいの明堂にとって、先について考える余裕がなかった。しっかりした考えを持つベニーは大人なのに対し、自分はとても頼りない子どものように思えてならない。 「ベニー先生とマモルが話し合いするの、僕はあまりいい気持ちがしません」  しかも負の感情を晒すたびに、自らを貶めるように感じ、嫌われてしまうのではないかと不安に苛まれる。 「弘泰の意識のないところで、深い関係になったりはしません。安心してください」 「それでも僕は嫌なんです……」 「マモルにヤキモチをやくくらい、私のことが好きなんですね」 「好きです。マモルだけじゃない、ベニー先生を誰にも渡したくないです!」  即答した明堂は顔を寄せて、キスしようとした。その動きを察知したベニーは、少しだけ上半身を捻って逃げる。受け止めてくれると思っていただけに、求めたことを拒否されて、目の前が真っ暗になった。 「どうして……」 「今しようとしたことは、マモルにとって嫌なことの部類に入ります。君が感じることは、彼に筒抜けなのでしょう?」 「たぶん、そうですけど」  寄せた顔を引きながら、両手を膝の上でぎゅっと握りしめる。好きな人に拒否されたショックで、頭の中がパニックになっていく。 「どこで転生したのかわからなかった弘泰をここまで追いかけて、やっと相思相愛になったんです。本当は君を抱きたい。私だって我慢しているのですよ」 「…………」 「私も弘泰が好きです。マモルごと愛しているのです」  そう言って明堂の右手を手に取り、甲にくちづけを落とした。 「んっ」  ベニーの柔らかい唇を肌の上に感じて、変な声が出てしまった。 「これ以上マモルに嫌われないように、今後は派手なスキンシップはしません。理解してください」  明堂を納得させるように、じっと見つめるせいで、渋々ながらも了承せざるおえない。 「わかりました」 「少しでも早く、和解できるように頑張ります。焦れた弘泰が、他の人のところに行かないようにしなければ」  どこか困り顔したベニーは、掴んでいる明堂の右手に指を絡めて、名残惜しそうに頬擦りした。 「他の人のところになんて行きません。僕は、ベニー先生が傍にいてくれたらいいんです」  言うなり、腰元に抱きつく。ベニーが指を絡めている右手を解放したら、明堂は愛おしそうに両腕で強く躰を抱きしめた。 「弘泰も協力してください」 「協力?」 「嫌なことがあっても、自分の力で対処するのです。逃げずに立ち向かうこと」  頭を撫でながら告げたベニーの言葉に、気だるげに上半身を上げて、目の前にある顔を眺める。 「マモルと交代せずに、僕が立ち向かう……」 「ええ、彼の仕事を奪うのです。勇気をだして、抗ってはみませんか?」  突如なされた提案に、明堂は素直に賛同することができなかった。嫌なことから逃げるのが常だったせいで、なかなか勇気をだせなかったのである。

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