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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい76

「……そうですね。言うことをまったく聞かない赤子にウンザリして、簡単に人殺しをしそうな気がします」 「だがそれをしたら、俺の来世がなきものになる。俺はどうしても幸せになりたかった。だから絶対に弘泰には手をあげず、むしろ大事に育てた。本当の親のように、ここまで育てたんだ」  ベニーを睨みながら熱弁する弘泰の見守り人のセリフに、会話の糸口を見つけた。大事に育てていると豪語しているのに、おかしいと思わずにはいられない。 「しかし弘泰が学校で虐められていることや、兄の伊月に襲われているのを知っていたのでしょう? どうして助けなかったのですか?」 「本当になにも知らないんだな。おまえが弘泰と似たような状況になっても、おまえの見守り人は助けなかっただろう?」 「助けてくれませんでした」  確かにその通りだと思いながら、返事をするしかなかった。情報を与えられるばかりの現状に、ベニーは歯がゆさを覚える。 「命の危機にかかわる以外は、助けてはならない決まりになってる。手を貸してしまったら、弘泰の人生にペナルティが課せられる仕組みなんだ。だから知っていても、俺は助けられなかった」 「確かに人生にペナルティが課せられるのなら、自分が見守り人だった場合、当然目をつぶります」  ベニーはこれまでに知った情報から、見守り人のローランドとのやり取りを思い出してみる。孤児院でお腹をすかせてひもじい思いをしていたときや、男娼として躰を売り養父母の借金を返済していたときも、いっさい手を貸してはくれなかった。  でもあのとき――男娼の屋敷から逃げ出して行き倒れたところで、心配そうに眉根を寄せながら空色の瞳を細めて手を差し伸べてくれたタイミングは、命の危機だったのかと改めて思い知らされた。 『大丈夫かよ、おまえ生きてるのか?』  そう声をかけられて抱きしめられた瞬間、自分に寄せられた心のあたたかみを直に感じた。それなのに極限にお腹がすいていたせいで、すぐ傍にある空色の瞳を「美味しそう」なんていう言葉で表現したことは、ベニーにとって恥ずかしい思い出となっていた。

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