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抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい11
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綺麗な髪の人間ベニーは、俺の言葉がわかるらしい。それがわかっているからなのか、アイツは俺に向かって、口煩くあれこれ命令する。
「いいですか、先輩。私の留守中にテーブルの上にある物を、床に落とさないでください。落ちないように上に重しを載せているのに、わざわざそれを退けてまで落とすなんて、本当に信じられません」
「にゃぁ……」
「そんなのわかってるって言ってるんでしょうけど、その眉間のシワ。同時に煩いなと思っているのでしょうね。先輩がいたずらしないように、なにか対策を考えなくては」
俺の顔を見ただけで、この有様である。こうしてくどくど文句を言われているというのに、俺自身にはこのことについて、不思議と不快感がなかった。
聞き慣れているわけじゃないのに、それが当たり前みたいな感じで聞き流せる。だから一緒に生活していても、まったく苦にならない。俺は自由気ままに、ベニーの家に住んでいた。
「大人しくしていてくださいね、行ってきます」
ベニーは長かった髪を、肩に揃えるように短く切った。ふわりとそれが揺れるだけで、いい匂いが漂ってくる。
「にゃー」
遠のいていく背中を見送りながら鳴いてみせたら、前に進む足がピタリと止まった。
「……先輩、ごめんなさい」
振り返らずに告げた言葉の意味がさっぱりわからず、俺が首を傾げるタイミングで、ベニーは出て行ってしまった。
「にゃあっ!」
互いの言葉が通じあっているのに、もどかしさを覚える。アイツの名前を呼んでも、猫語しか喋れない俺。会話の途中で、唐突に謝ることをするベニー。
意味不明な謝罪を聞いた俺は、アイツに対してどんな態度をとればいいのやら。
「にゃぁ……」
意味不明なことといえば、もうひとつ。月に2回くらい、ベニーは夜中に狩りに出かける。
場所は毎回違うところで、車という大きな箱で遠くに出かけ、俺を肩に乗せたまま銀色の銛を器用に操り、建物の壁からすり抜けてくるモノを狩ってから、赤い果物に変化させて、美味しくなさそうな顔で食していた。
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