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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤
アイツと出逢ったのは偶然なのか、それとも運命なのか。今考えても、さっぱり理解できない。
経営しているカクテルバーの買い物をしようと、ショッピングモールに足を運んだときだった。遠くからピアノの音色が、耳に聞こえてきた。印象に残る独特なメロディに引き寄せられるように、足が自然とそこに向かう。
空きスペースに『ご自由にお弾き下さい』と書かれたボードと、赤い絨毯が敷いてある上には、よく見かけるラップトップの黒いピアノが置かれていた。それに向かい合っていたのは、20代前半と思しき青年で、険しい表情を浮かべながら音を奏でる。
なんの曲なのかはわからない。とても明るい曲調なのに、青年の弾くものは表現することのできない儚さと切なさが入り混じっていて、多くの人の足を止めた。
キーの高い、右端の鍵盤を撫でるようにポロンと弾き終えたと同時に、左手が不協和音を奏でた。それにより今まで演奏していた曲を、わざとダメにしたのがわかった。
俺と一緒に聴衆している者も、息を飲んで青年を見つめる中、無表情のまま両手をぶらんと躰の両脇に下げて、椅子からゆっくり立ち上がる。
途中までは素晴らしい演奏をしていたというのに、誰ひとりとして、拍手する者がいなかった。
俺はその場に突っ立って、息をこらしながらピアノから遠ざかっていく青年を見つめる。長い前髪のせいで、どこを見ているのかわからない青年の白いシャツが、やけに目に眩しく映った。
(このまま、見送るわけにはいかない――)
そんな判断が脳内を駆け巡るのと同時に青年に素早く駆け寄り、肩をいきなり掴んでやった。女のような華奢な薄い肩をしているのがてのひらに伝わり、掴んだ手の力をぱっと緩めながら外す。
「……なんですか?」
振り向きざまに訊ねた青年の顔は、悲壮感に満ち溢れているように見受けられた。
「あ、あのさ、さっきの演奏。すげぇよかったのに、あんな終わり方にしたのは、どうしてなのかなって」
「そんなのピアノを弾いてる、僕の勝手でしょう。放っておいてください」
眉間にシワを寄せて、威嚇するような声色で返答されたからこそ、こちらも負けじと大きな声を出す。
「放っとけるわけないだろ! あんなにたくさんの人の足を止める、とてもすばらしい演奏をしていたのに、それをおまえの勝手で、適当な終わり方にしやがって。もったいないと思わないのか?」
俺の言葉を聞いた青年の瞳が、切なげにゆらゆら揺れた。引き留めた際に見た悲壮感を表すものではなく、怒りに似た感情がはっきりとそこにあった。
「なにも知らない通りすがりの貴方に、僕のなにがわかるっていうんですかっ!」
目を吊り上げながら怒鳴られても、へらっと笑ってやり過ごす。客商売をしている関係で、いろんな感情をいなすことは得意だった。
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