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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて25
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普段はしない俺からの声かけに、聖哉はなにかを察したのか、珍しく空いてるカウンター席に座って、美味しそうに俺が作ったノンアルカクテルを口にする。
その様子を一人分空いた席から、サオリさんがじーっと眺めていた。
「石崎さん、今夜のカクテルはこの間作ってくれたオレンジベースのものと、少しだけ味が違うんですね。酸味が強いけど、そこまで酸っぱくないのに、爽やかさを感じます」
「おっ、よく気づいたのな。隠し味にミントが入ってるんだ」
「わかりますよ、そりゃ。毎晩飲んでるし」
嬉しそうに言いながら、カクテルグラスを意味なく回す聖哉。傍から見たら、照れているように見える。
「聖哉、ノンアルなのに、なんで頬を赤らめてるんだ?」
まったく顔色を変えていなかったが、わざとそうなるように指摘してみる。
「へっ?」
「ほら、頬が熱い」
話しかけながら、ふっくらした頬に触れた途端に、ぶわっと体温が上がったのが指先に伝わった。作戦成功である。
「誰のせいですか、もう!」
「悪かったって、怒るなよ。次の休憩のときは新作を試させてやるから、機嫌直してくれ」
その後もテンポよく聖哉と会話を続けていたら、サオリさんが腰をあげてカウンター席から降り立つ。
「智之さん帰るわ。お勘定お願い」
俺たちの会話の邪魔をするようにいきなり割り込み、お金を置いてさっさと店を出て行く後ろ姿に一応「ありがとうございました」と付け加え、聖哉は無言で見送った。
「……彼女、また来るでしょうか?」
サオリさんが出て行ってから、一息つくように、ノンアルカクテルに口をつけた聖哉がポツリと零す。
「わからない。昨日のアレを見て今夜来るとは、思いもしなかったし」
「僕も驚きました。まるで、確かめに来た感じでしたよね?」
ため息をつきつつ、眉根を寄せる聖哉の面持ちを目の当たりにして、内心ドキッとした。
(本人わかっていないようだが、随分と色っぽい顔をしてる)
「ああ。正直、公衆の面前で仲の良さを見せつけるのは、結構気を遣うからな。さじ加減が難しい」
「ほかのお客様の目もありますしね。当然ですよ、それは」
胸のドキドキを悟られないように平静を装うと、聖哉はグラスに残ったカクテルを一気飲みし、両手首をぶらぶら揺らしながら椅子から降りる。
「面倒なことに巻き込んで、ホント悪いな」
「使える者はピアニストでも、じゃんじゃん使ってください。それがお店のためになるなら、僕は嬉しいです」
聖哉は満面の笑みで答えてくれたのだが、俺としては心中複雑だった。
恋人として付き合いたい気持ちの俺と、今の関係を維持したい聖哉。相容れない俺たちの想いは、いったいどこに向かうのだろうか。
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