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第32話
「一二三、寒い」
腕の中の独歩はそう呟いた。
さして寒くはないとは思う、風呂場には暖房が利いているし。
彼はただオレの腕から離れる口実が欲しいんだ。
今は悪酔いしてないから……記憶はハッキリしてるし。
「どっぽちん、裸の付き合いしよー?」
オレは濡れて脱ぎにくいスーツを出来るだけ早く脱ぎ始めた。
「一人で入れ。あいにく……俺はこんなに狭い風呂に二人で入る趣味はない」
「どっぽちん、違う。エッチしよ」
「……は?!」
独歩がビックリするのは無理もない。
オレが彼をエッチに誘うのは『悪酔いした独歩』と『オレがトラウマに魘されたとき』しか有り得ないことだから。
これはイレギュラー。
オレの独歩が汚された『怒り』と、オレしか知らないはずの独歩を犯られたという『独占欲』。
そしてオレと独歩への『慰め』。
そんな気持ちが入り乱れていた。
独歩を角に追い詰める。
逃げられたら困るから。
だけど何故か独歩は逃げなかった。
「オレが魘されてエッチしたときのキスマークの跡、まだ残ってたんだ。これのせいでどっぽはオレ以外の男に犯られちゃったんだ?」
「俺は女性じゃない」
「でもオレがヤなんだから。どっぽはオレの『親友』、傷付けられたら慰め合う……狼の性だよ」
ようやくオレも全裸になれて、独歩をキツく抱き締めた。
目の前には窶れた愛しい独歩の顔。
また痩せたな……と思いつつも彼の頭を片手で固定してキスをした。
「ン……ぅ」
独歩の鼻に掛かった甘い声は不思議と嫌そうじゃなかった。
今までの嫌なことを全て忘れるくらい、飛びきりの快感を彼にあげよう。
そう誓いながら、角度を変えて唇を求めた。
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