32 / 32

第32話

 危ないところでした。地獄耳と異名をとります女中頭に、はしたない声を聞きとがめられましたらで、その前に牝馬の手綱をとることができて幸いでございました。  とは申しますものの、油断は禁物です。  何しろ、蓮芋の茎を編んでこしらえました〝肥後ずいき〟──魔羅をかたどったものが、花芯の奥深くにえぐり込まれているのです。  古来より淫具として親しまれてきましたそれが、身じろぎしますたびに陰核をごりごりとすり上げてゆき、えもいわれぬ快美感をもたらすのです。  早、茎は(めぐ)んでおります。いいえ、すでに蜜をふんだんにはらんでおります。  いざ馬に跨れば陰門が鞍にこすれまして、よがり声を嚙み殺すのに苦労することでしょう。 でこぼこ道を駈けますときには甘がゆいような振動が深奥に響き、褌様(ふんどしよう)にきりきりと秘部と締めつけてきます貞操帯が、淫水でぬらつくにちがいありません。  それにしても春の陽がうらうらと芝生に降りそそぎ、絶好の乗馬日和です。  朋貴さまを交えて〝乗馬のレッスン〟に励みましたのは、一昨夜のことです。以来、格段に進歩したと旦那さまが太鼓判を押してくださる手綱さばきを披露するのが、楽しみで仕方がありません。  威厳に満ちあふれておりますなかにも、茶目っ気を併せ持つ旦那さま。  闊達な朋貴さま。  野に遊びます今日、お側仕え風情に心安く接してくださいますご兄弟とともに、どのような、めくるめくひと時を過ごしたのか。  紳士・淑女の皆さま方に、いずれ事の顛末をカクカクシカジカとお話しする機会に恵まれますれば幸甚に存じます。  旦那さまが愛馬の背に落ち着き、手綱を握り寄せます。たてがみを()いてやったあとで、馬の尻に軽く鞭をあてます。  朋貴さまが颯爽と続きます。  おふたりに後れを取ることがあれば、大変です。折檻されますことは想像に難くありません。 長靴(ちょうか)のかかとを彩る拍車で乳首をにじられるのは、ほんの序の口。まかり間違えば、ガマの穂ですとか、土筆(つくし)が蜜の(くだ)に挿し込まれまして、野趣に富みました人間花器として扱われるやもしれません。  かような細工がほどこされましたうえで、〝ふぐり〟を撫で撫でされますれば、淫楽地獄にのたうち回ることになりますでしょう。  もっとも、お仕置きを受けますに、やぶさかではありません──単なる戯言(ざれごと)にございます。額面通りに受け取ってくださいますな。  風がそよ吹き、さあ出発です。それでは皆さま、ご機嫌よう。     ──了──

ともだちにシェアしよう!