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Ⅰ 恋せよ、俺!⑦
あろう事か……
10月31日〈ハロウィン〉
同期で親友の男 斉木 航雅 と、俺は口づけを交わしてしまった。
中條 馨 先輩!
あなたという、心に決めた人がいながら俺は貞操をッ
……まだだ!
まだ失っていない。
唇じゃないから。
これは誓いのチューじゃないんだァァーッ!!
「ルクセンブルクでいいか?」
「……へ?」
「新婚旅行」
「はい~?」
「将来の視察も兼ねて」
俺の会社にルクセンブルク支社なんてあったっけ?
「同性婚できるんだ。国籍を取得して移住しよう」
ぱくぱく
思考停止
お口が金魚さん
新婚旅行……
同性婚……
………………初夜♥
「俺の……」
大事な貞操
「童貞喪失」
「それを言うなら処女喪失だろ」
どっちでもいいわッ
否、よくない!
……深く考えてなかったけど。俺は抱かれる側になるのか?
航雅と結婚したら、童貞のまま一生涯を過ごすんだ。
そんなの嫌ー♠
でも先輩と一緒になっても……うぅぅ~
○ 先輩は許す
× 航雅はダメ
「貞操は愛する人にしか渡しちゃいけないんだ!」
「俺に頂戴♪」
「なんで、お前にっ」
「愛する夫だろ」
「なななっ」
ナァァァーッ!!
叫びは吸い込まれる。
ぷにってしていて、
湿ってて、生暖かくて、
ちょっと気持ちいい……
「んっ」
なに?
柔らかいな……
ヌチャヌチャ
水音が鼓膜の奥に響く。
唾液が溢れてくる。どうしよう、飲み込めない。
舌が俺の舌に絡みついて……
なんで口の中に、二つ舌があるんだ?
ままま、まさかッ
もしやーッ
チュプ
濡れた音のすぐ向こう。
目の前!
至近距離に美形がいる。
「キスは目を閉じてするんだぞ」
ぱくぱく
「もしかして、結羽……初めてだった?」
ぱくぱく
「顔、真っ赤。可愛いな♪」
チュ
鼻の先を舐めた。
さっきまで、俺の口の中に入ってた舌が……
レモンの味しなかった。
甘酸っぱくもなかった。
やらしいヌメヌメだった。
俺のファーストキスが同期の親友に奪われたーッ!!
………ディープで♠
「お前達、公衆猥褻罪だぞ」
「そうだぞ。キス見られたら恥ずかしいじゃないか」
あれ?
誰の声?
「結羽はお持ち帰り予約済なんで。手ぇ出さないでくださいね、中條サン」
「なんでっ」
先輩がいる!
スーツ姿で。
見られてしまった。
航雅とのキスを、先輩に……
「帰り際に上司に呼び止められてな。遅れて悪かったな」
「林課長でしょ、あの人話くどいからなー」
「なんで知ってる?」
「俺が課長に頼んだから」
フッ、と。
蒼い双眼が吊り上がった。
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