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Ⅴ 狼男の勇気【完】

ワンコールで繋がった。 「俺です、先輩。もうすぐ行きますから。だから、あともうちょっと……もうちょっとだけ待っててください」 スマホを握りしめて歩く。 早歩きする。 駆け出す。 「俺、先輩に伝えたい事がっ」 背中が見えた。 走る。 水溜まりを蹴って。 濡れた髪、肩、スーツ あなたの姿が瞳に広がっていく。 雲間から月の輝く夜空の下で、俺はやっと見つけた。 自分のほんとうの気持ちを いま、あなたに……… スマホを握りしめたままの左手の手首の赤いリボンがひらめいた。 あなたが振り返る。 あなたの背で紅葉が揺れた。 月の明かりが吐息した夜風に揺られて、色づき始めた紅葉が鳴る。 ドキドキ響く心臓の音に、俺は負けない。 息を吸い込んだ。 月夜の(おぼろ) 狼男は勇気を振り絞る。 「あなたが好きです」 ―fin―

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