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破砕する心6
翔也が茫然と自分を見つめているのを見て、涼は自分がとんでもない事を口に出してしまったと気付く。
糺の結婚という話しに動揺し涙が止まらなり、動けなくなっていると翔也が来た。
翔也は実の父親である武範から息子として愛されている。そして義母である由美からも。
由美は妻として武範に大事にされている。
加虐嗜好の限りを尽くされた二日間に涼の身体は疲弊しきっていた。
自分は武範にとって永遠に欲望を叶える玩具でしかない。その事実に身体以上に心が折れた。
そこに糺の結婚の話しを聞かされた。
糺が結婚する。
どこかの女性と。
糺の幸せを願っていたのに、いざ糺が自分以外の人と幸せになろうとしていることに激しく動揺した。素直に喜べ無い自分の心の卑屈さを突き付けられる。
そこに両親に愛されている翔也が現れた。
何かが涼の中で弾けた。
弾けて、壊れて、そして頭で考えるより先に言葉が迸 ってしまった。
何を言ってしまったのだろう。
翔也は自分を愛していると言ってくれているのに。
翔也に抱かれているのに。
決して言ってはいけない言葉を、翔也の父親にも抱かれている事を言ってしまった。
お前の父親は加虐嗜好の持ち主で、脅迫されて鞭でしばかれてセックスの相手をさせられているんだと、そんな目にあっているんだと、そんな事を聞かされて翔也がどんなに傷つくか。
わかっているからこそ今まで気をつけて、気付かれないように注意し、黙って耐えてきたのに。
「翔也…」
涼は茫然としている翔也をこれ以上直視することが出来なくなった。
これは八つ当たりだ。糺の結婚に動揺して、幸せを願うと言いながら傷ついて、そんな自分が卑屈過ぎて、翔也に八つ当たりした。
顔を下に向ける。
「ごめん、ごめん翔也…」
翔也の視線が辛い。
膝を両手で抱えてその上に顔を埋める。
「ごめん、言うつもりじゃなかったのに…俺、今どうかしてるんだ…」
涼は膝に顔を埋めたまま、翔也も声を出さず、リビングに沈黙が流れた。
カシャ。
何かの音が涼の耳に聞こえた。
カシャ、カシャ、カシャ。
連続で聞こえて涼は顔を上げる。
顔を上げても、視界の中に翔也がいない。振り返ると翔也がスマホで涼の背中を写していた。
「翔也!何してる!?」
「証拠だよ」
「証拠?」
「父さんにこの写真を突きつける」
「な、何言って…」
「腕も出して。写すから」
「馬鹿!やめろ」
涼が逃げようとすると、翔也に押さえ込まれた。そのまま馬乗りになり涼の動きを止める。
力は翔也の方が元々強く、二日間の凌辱で疲れ切っている涼は全く叶わない。
翔也は片手で涼の腕を押さえ、反対の手にスマホを持ち涼の手首を写す。
「翔也!そんな事をしたら…」
「家は出るよ」
「えっ…」
「兄さん、二人で生きて行こう。アパートでも借りて」
「翔也、何言ってるんだ」
「元々大学出たら兄さんにプロポーズするつもりだった。予定より早くなったけど。大学は奨学金申し込むし、バイトもするし」
「翔也…」
「足首も撮るよ」
翔也は涼のズボンの裾を上げ、靴下を脱がせた。
涼は翔也の『父さんに言う、家を出る』という言葉に気をとられ、もう写真などに構っていられなかった。
カシャカシャカシャ。
翔也は写真を撮っていく。
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