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 新聞部から記事ができました、という連絡が届いたのは休み明けのことだった。親衛隊とお茶会の約束があった俺は、指定された場所に向かう前に新聞部の部室に寄ることにする。 「こんな感じです」  新聞部部長に手渡された記事は、俺の失恋が大々的に取り上げられていた。吉衛先輩に迷惑を掛けたくない、という対談中の希望を全面的に叶えられたものだ。いや寧ろ俺の失恋ネタを大きく取り上げるというのは新聞部としても願ったり叶ったりだろうから、俺の言葉が利用された形になるのだろうか。  記事の最後の方に目を走らせ、顔を引きつらせる。 『秘密です、と微笑む彼の目は、吉衛隊長への愛に満ち溢れていた』  いっやぁ……。違うだろぉ……。俺絶対そんな顔してないって。一応部長に確認すると、「間違いなくしてました!」とキラキラした目で断言される。あ、そう?   じゃあまぁいっか、と半ば投げやりに記事を許可すると、部長は嬉しそうに目を輝かせた。 「これ、一部差し上げます。体育祭後に発行する予定です」 「ありがとう。じゃあいただくよ」 「いえ、こちらこそ。ご足労いただきありがとうございました」  ニコニコと機嫌よさそうに笑う部長に見送られ、部室を後にする。新聞から顔を上げ、前を見る。あ、と声が漏れた。廊下の向こうからは吉衛先輩が歩いてきていた。空間から音が奪われたように感じる。ゆるり、と手を振るとその目はキ、と不機嫌そうに細められた。嫌悪感丸出しの反応に苦笑すると、気に喰わなかったのか先輩の眉間に皺が寄る。綺麗な顔だけに圧がすごい。 「こんにちは、先輩。新聞部の原稿チェックですか?」 「そうですよ」  舌打ちをしないのが不思議なほどの低音で肯定が返ってくる。 「その、手に持っているのは例の新聞ですか?」 「そうです。見ますか?」  新聞を差しだすと、先輩は表情を和らげることなく申し出を撥ねつける。 「結構です。それを見に来たんですから」  それもそうか。納得し、新聞を引っ込める。吉衛先輩は俺に向かってため息を吐く。内心委縮するも、ばれないように微笑んでみせる。 「先輩に俺が振られたってきっちり書いてありましたよ」  俺を代替品にしてるとかいう不名誉な噂は付きまとわないと思いますのでご安心を。  吉衛先輩は俺の顔を冷たい眼差しで見返す。 「想われること自体が、迷惑なんですよ」 「あ、は。そりゃまぁ、そうでしょうねぇ」  笑ってみせると、ハンッ、と鼻を鳴らす音。冷たいな。 「なんで、僕なんだ」  睨みつける相貌。その瞳は一切の温度がないにもかかわらず、どこか痛そうで。ああ優しい人だなぁと口角を緩ませる。先輩は能天気な俺が気に喰わなかったのか、躊躇なく俺の足を踏みつける。 「い゛っ、先輩」 「本当、アンタ嫌い」 「そりゃ、悲しいなぁ」  先輩はイラッとした表情で俺の足をギリギリと踏みしめる。いでででで、と痛がる俺の背後から、ゆらりと低い声が忍び寄る。 「……何を、している? 吉衛」 「おや。風紀副委員長の非、公式親衛隊隊長、横内陣くんじゃないか」 「何をしてる、と聞いている」  横内先輩は言い分を待つことなく吉衛先輩を乱暴に押しのけ、俺を背に庇う。 「吉衛、お前、死にたいの?」  ただでさえ目障りなのに。  横内先輩の冷たい声に、吉衛先輩はフ、と笑う。 「ほら、面倒事が来た」  嘲るような声に横内先輩がいきり立つ。 「お前──ッ」 「横内先輩、」  ごめんね。  止めるでも、吉衛先輩を庇うでもない俺に、横内先輩は動きを止める。表情を緩めていた吉衛先輩は、また不機嫌そうに俺を睨みつけた。だってしょうがないじゃないか。横内先輩を止めてしまえば俺を想って怒ってくれている彼の行動を否定することになってしまうし、庇ってしまうと吉衛先輩を悪者にしかねない。ただでさえ吉衛先輩は横内先輩の心 証が悪いのだ。俺が庇ったところで悪化するのが関の山だろう。それに、横内先輩の心配を無碍にしている俺には謝る必要があったのだ。 「やっぱ、嫌い」 「知ってます」  暴言に困ったように笑う俺に、動きを止めていた横内先輩は再び殺気立つ。 「椎名さま、限界です」  横内先輩は一方的に宣言すると、俺の手首を掴む。吉衛先輩から引き離すように引っ張るようにずんずんと歩いていく。振り返りながら吉衛先輩に手を振ると、そっぽを向いて無視された。冷たい。  ずんずんと引っ張った末に連れてこられたのは、親衛隊が使用許可を取っているらしい大教室。そういえば親衛隊とお茶会の約束してたんだっけ。 「おい」  それにしても大きい教室を取ったなぁ、と物思いに耽りぼんやりとしていると、後ろから声を掛けられる。直後、掴まれていた手が乱暴に解かれる。横内先輩の声かと思うも、聞き覚えのある声に否、と思い直す。声の主は背後から俺をしっかりと抱きこんだ。 「お前、なに手とか繋いでるの? 赤は、俺のなんだけど」 「……橙」  威嚇する声に苦笑する。先輩を睨みつける橙に、俺は呆れ気味に声を掛けた。

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