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 神谷、柴、林、橙の自己紹介が終わると、円が微妙そうな顔をする。大方F組に対し思うところでもあるのだろう。Fを風紀の傘下に入れたと報告した時にも同じ顔を見た。こちらが表情の理由を察したのを感じたのか、円は浮かべた表情を消した。ざらつく胸中に視線を強めると、不意に頭を撫でられる。この手は……位置からして牧田だろうか。頭から徐々に下がってきた手は、慰めるように俺の目元を覆い隠した。 「……馬鹿だな」  どこか嬉しそうな、空気に溶けそうなほど微かな呟き。手で俺の目を覆ったまま、牧田は少しふてぶてしさを感じさせる声で話しだす。 「今更そんな敵視されたところで俺たちは傷つきやしないけどさぁ」  うちの子は傷ついちゃうわけ。  目を覆う手にクッと力がこもる。うちの子が自分を指す言葉だと理解した俺は、気恥ずかしさに手を取り払おうとする。ふ、という笑い声の後、手はあっさりと退けられた。 「おいそこ、じゃれるな」  青が眉間に皺を深く刻み、苦言を呈す。はっと我に返った俺は、ピンと背筋を正し椅子に座り直した。やきもち~? と煽りにかかる牧田を無視し、青は手元の紙を読み上げる。 「交流会に参加するのは俺と椎名、二村、牧田、神谷、漆畑、林、柴の六名だ」 「ふぅん、なんとか例年並みの人数になったね夏目」 「ああ。文化祭に間に合ってよかった」  田辺の感心したような呟きに青は微かに苦笑いをする。 「? 風紀の人数、少なかったんですか?」 「「ええ~っ! 志野ちゃん知らないのー?」」  不思議そうに尋ねる眼鏡くん……副会長補佐の東くんだったか。その疑問に応じるのは会計補佐と庶務を務める双子の兄弟だ。土屋北斗と南斗だったか。どっちがどっちか区別がつかない。多分、つかないようにしているのだろう。理解できないな、と兄弟から視線を逸らす。双子は俺の思いに気付くことなく楽し気に話を進める。 「なんでも~前委員長についていけなくてかなりの人数が振り落としを喰らったとかなんとか~。ねっ北斗」 「有名な話だよねー、南斗」  きゃいきゃいと話す双子。青の苦々しそうな表情を見るにその噂は強ち間違っていないようだ。 「生真面目な奴ばっかだったせいでなかなかな。相性の問題ってあるから仕方ねぇが」  青は言葉を濁す。でもまぁ、お陰で相沢先輩にとっては過ごしやすい環境が出来上がったって訳だ。あの人はとにかく我が道を行く人だから、そこまで考えて行動したと言われてもさほど驚きはしない。青の話しようからしてその想像は大きく外れてもいないのだろう。流石というか、なんというか。 「はいはい、話戻すよー」  パンパンと田辺は掌を打つ。各々が話を聞く姿勢に戻ったのを確認した田辺は、コホンと空咳をし、会議を再開させた。 「はい、ありがとう。今回の交流会なんだけど、夏目の家の別荘で行います。日程は夏休み頭の二泊三日。特別何か必要な物はないよ。服装は私服。その他質問はある?」  一同を見回した田辺は、特に質問の上がらないのを認めると、解散を告げた。別れ際、円の物言いたげな視線に気付く。何か考え込むような円に、俺が声を掛けることはなかった。  七月下旬。終業式。  生徒会、風紀両陣営とも全校生徒の前での挨拶を終え、会はつつがなく閉じられた。講堂から教室へとつながる廊下は、気の緩んだ生徒のざわめきが広がっている。  隣を歩く青が「赤、」と俺を呼ぶ。 「交流会、もうすぐだな」 「……あぁ」  ミーン、と蝉の鳴く声。気温は日に日に高くなってきている。交流会の頃には更に暑さを増していることだろう。今日から夏休み。あの日から十二回目の夏は、もうすぐそこにいる。

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